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知的財産リテラシー(理解力)を社内で高めるには

つい先日、料理アプリを提供するPrepareがAppleからロゴの商標権侵害として提訴されていること、そして、その訴訟取下げを求め署名活動を行っていることがニュースになっていました。
あの世界的企業が従業員数名の小規模企業を訴えているということに、多くの人がショックを受けたのではないでしょうか。こうした知的財産を巡る争いは日常的に行われています。しかしながら、日本企業の知的財産権へのリテラシー(理解力)は高いとは言えません。今回は社内の知的財産リテラシーをどう高めていけばいいのか、弁理士の井上正先生に教えて頂きました。

知的財産リテラシー(理解力)を社内で高めるには

東京UIT国際特許法人 弁理士 井上正 氏

知的財産、知的財産といっても、経営者の方からは、「研究開発をしている大企業だけが関係する話だろう。うちなんかは関係ないよ。」、「儲かったら考えるけどね。」、「特許?なんだかハードルが高そうだよね。」という声が聞こえてきます。
一方、従業員の方からは、「僕は営業だから知財なんか関係ないよ。」、「私は事務だからよくわからなくてもいいわよね。」、「社長からは知財を強化するって言われたけど何をどうすればいいの?」という声が聞こえてきます。

知的財産リテラシーが低いから、このような声があがるのですが、では知的財産リテラシーを社内で高めるにはどうしたらよいでしょう。
知的財産リテラシーを高めることを考えた場合、経営者側の理解はあるのか、それとも無いのか、従業者側の理解はあるのか、それとも無いのかというように、それぞれの立場での理解の有無を考慮する必要があります。

①経営者側も従業員側のいずれも知的財産リテラシーがある場合
このように経営者側も従業者側もいずれも知的財産リテラシーがある場合には、一応の問題はありません。但し、知的財産の何をオープンにするのか、知的財産の何をクローズにするのかというオープン・クローズの問題はありますが、そのような問題は次の段階でしょう。

②経営者側に知的財産リテラシーが無い場合
経営者側に知的財産リテラシーが無い場合には、経営者側の方々に知的財産の重要性を理解してもらわなければなりません。
たとえば、
・会社の技術をライバル会社にまねされたらどうするのか?
・知的財産について何も所有していないのに他社とタイアップするときにはどうするのか?
・会社信用力、企業価値はどのようにアピールするのか?
などを経営者側に聞いてみてください。
特に、ライバル会社の知的財産における傾向を把握したうえで経営者側にお話しするとよいでしょう。たとえば、ライバル会社が知的財産に力を入れていたら、そのライバル会社に引き離されてしまう恐れがあることや、逆にライバル会社が知的財産に力を入れていなかったら、そのライバル会社を自社が引き離すことができることなどを訴えるとよいでしょう。
経営者の方によっては、
「他社から訴えられなければ何をやってもいいのではないか?」
「侵害がわからなければ構わないのではないか?」
ということを言われるかもしれません。
しかし、そのようなことをしていて会社の信用力を維持できるのでしょうか?
「あの会社は知的財産を尊重しない。」ということになれば今まで築きあげてきた会社の信用力は一気に地に落ちてしまいます。信用を取り戻すには多大な時間とお金がかかってしまいます。
また、経営者の方によっては、
「うちみたいな会社に知的財産は無いよ。」
と言われるかもしれません。
しかしながら、知的財産は特許庁に出願して権利を取得するものだけではありません。少人数のグループ・ディスカッションによって生まれる、ちょっとした工夫、業務改善も知的財産です。1か月に1回でも定期的にアイディア出しを行い、優れたアイディアには表彰(金一封、社長賞などの賞状)をすることにより社員は業務改善に取り組みます。
必要であれば、社外から知財コンサルタントなどを呼び、経営者側に知財の重要性を説明してもらうことも一考かもしれません。

③従業員側に知的財産リテラシーが無い場合
一般事務、営業、技術者など従業員の立場によって対応が異なると思います。
(i)一般事務の場合
従業員が一般事務の場合、「知的財産は自分には関係ない」と思いがちです。
しかしながら、一般事務の従業員であっても、知的財産について理解していないと自社の技術についてうっかり口を滑らせ権利取得の妨げとなってしまうことがあります。このために知的財産の基礎的な知識を知ってもらう必要があります。特に知的財産と自社のビジネスとの関係を理解してもらうことは必須です。
一般事務のような従業員に知的財産の基礎知識を理解させるには知的財産についての講義を単に聞くのではなく楽しく勉強してもらうためにアクティブ・ラーニングが好ましいでしょう。
(ii)営業の場合
従業員が営業の場合、自社の新商品を売り込むために意図的でなくとも自社の新技術を他社に話すことがあります。営業という仕事柄仕方のないことですが知的財産の知識をもっていれば話せることと話せないこととの線引きができます。たとえば、自社の新技術を話してしまったが故に、自社が権利取得できなくなるだけでなく他社に権利を取られてしまったり、自社のノウハウを漏洩させてしまったことにより自社のビジネスが危機的状況になることがあります。とくに、海外進出をする場合には技術、ノウハウの漏洩リスクが高くなります。国内の展示会もそうですが、海外の展示会に自社の製品を展示したところ、自社の製品のコピーをすぐに作られてしまったという事例は多くあります。
このようなことから、営業の従業員の方については一般事務向けの知財教育のほかに営業向けの知財教育が必要となります。
(iii)技術者の場合
従業員が技術者の場合、一般事務や営業とは異なり、知的財産については少し深い理解が必要です。研究開発と知的財産とは自動車の両輪のように片方がかけても事業がうまくいかないということを理解してもらう必要があります。
知的財産の基礎的知識についてはもちろん、公報類※1を読み取る必要性があります。そうしなければ、すでに他社により権利化が図られている技術を自社で開発してしまい、開発が途中で止まるどころか他社から権利侵害として訴えられかねません。また、ときには、自社や他社の技術動向を把握するためにパテント・マップ※2なども理解する必要があるかもしれません。
いずれにしても技術者の方には、自分の技術が会社の運命の一翼を担っていることを認識してもらう必要があります。

④経営者側および従業員側のいずれにも知的財産リテラシーが無い場合
この場合には残念ながら、自社の技術を他社に盗まれたり、侵害しているとして警告を受けたりして初めて知的財産の重要性が理解できるかもしれません。


※1 例えば、特許出願すると出願公開公報が発行され、特許になると特許公報が発行されます。
※2 特許情報を解析して図面化したものです。

東京UIT国際特許業務法人

東京UIT国際特許業務法人(http://www.uit-patent.or.jp/
3名の異なる専門分野の弁理士によって設立された特許業務法人。
とりわけAIやITといった分野に強く、30年のキャリアの中で多数の案件に携わっている。
その他、意匠や商標にも対応しており、ビジネスにおける様々な知的財産権の問題や事前対策を相談できる事務所である。

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