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贈与のつもりがなくても税金がかかる「みなし贈与」とは

1.贈与の種類

贈与には、民法上の贈与(当事者間の意思、一般的に贈与契約により取得した財産)と、みなし贈与(当事者間の意思を問わない)があります。

みなし贈与は、相続税法上で贈与があったものとみなす規定です。

当事者間にその意図のない場合であっても、結果的にその実質が贈与と同様に評価できる経済的な利益の移転に対して、課税の公平の見地から、これを贈与とみなして贈与税を課税するとしています。

例えば、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けたとすると、個人であれば、相続税法7条により財産の時価とその対価との差額について贈与税が課され、法人であれば、受贈益として法人税が課税されます。

2.時価の定義

相続税法第7条及び第9条における時価は財産の種類によって異なり、その財産が土地等及び建物等である時には、通常の取引価額に相当する金額、それ以外の財産である場合には相続税評価額とされています。

・土地や建物:通常の取引価額相当
・それ以外の財産:相続税評価額

著しく低い価額の所得税法の規定との違いは下記の通りです。

所得税:時価の2分の1未満(所法第59条第1項第2号、所法令169条)
相続税:明文の定めなし(相続税法第7条、第9条)

「著しく低い価格」としての目安は、土地取引の場合であれば「時価の80%未満の価格」を指すと判断されています(東京地方裁判所の平成19年8月23日判決)。

3.具体例(個人間取引とみなし贈与)

(1) 生命保険契約とみなし贈与

契約者が保険料を負担している場合であっても契約者が死亡しない限り課税関係は生じないものとしています。

よって、生命保険契約について契約者の変更があった場合、それは契約上の変更に過ぎず、保険料負担者の地位までも引き継ぐものではないため、その変更に対して贈与税が課せられることはありません。

ただし、その保険契約を解約し、解約返戻金を取得した場合には、保険契約者はその解約返戻金相当額を保険料負担者から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されます。

(2)不動産の低額譲渡と低額譲受
本来の時価よりも低額で財産を譲り受けた場合に、時価と譲受価格の差額分がみなし贈与の対象となります。

土地などの不動産の売買において「時価の80%未満」で取引された場合は、みなし贈与に該当するという判断が過去にされており、これが現在の実務の基準となっています。

この基準に照らし合わせると、子供に安く土地を譲りたいが贈与税は回避したい場合、時価の80%以上の価格で売却を行えばよいということになります。また、親が建てた家を親名義にせず子供名義にすることもみなし贈与と判断されます。

<例>時価1億2千万円(取得費6千万円)の土地を5千万円で親が子に譲渡した場合、差額の7千万円は所得税法と相続税法でどのように取り扱われるか。
   
イ.売主側(親)の課税関係
個人間の取引のため譲渡収入に対して通常の譲渡所得の課税があります。ただし、譲渡損失が生じている場合は、その損失はなかったものとみなされます。

ロ. 買主側(子)の課税関係
著しく低い価額について時価と譲渡価額との差額に贈与税の課税が生じる可能性があります。

時価1億2千万円-購入金額5千万円=7千万円
7千万円 < 時価1億2千万円×80% → みなし贈与7千万円

(3)信託受益権
新たに信託の設定を行った場合などで、適正な対価を負担することなく受益権等を取得した時は、贈与税の申告が必要になります。

また、信託を設定する時点で受益者等の存しない信託で、将来委託者の親族等が受益者となる信託の設定を行った場合には、信託の受託者は贈与税の申告が必要です。

(4)配偶者居住権の合意解除とみなし贈与
配偶者居住権の設定期間中に所有権者との合意によりその設定を解除したあと、配偶者居住権の設定された居住建物の取り壊しや滅失、建替え等があった場合には、配偶者居住権が消滅し、建物の所有権者の権利が回復したことになるため、その部分の経済的利益について建物の所有権者に贈与があったものとみなされ、贈与税の課税関係が生じます。

4.具体例~個人法人間取引とみなし贈与

(1) 高額増資
法人が増資を行う際に、1株当たりの時価よりも高い価額で発行価額を定めた場合、時価と払込金額との差額について、高額出資者から他の株主へ利益が移転すると考えられます。

同族会社の増資(新株発行)のときに課税問題となるのは、株式の価額より新株の発行価額が低くされ、引受けに応じた株主等の権利に経済的な価値が生じる場合です(反対に、株式の価額よりも高い価額で既存株主以外の株主が新株発行に応じた場合には、既存株主に対して経済的な利益の移転が生じる可能性も考えられます)。

(2)同族会社に対する債務免除とみなし贈与
同族会社の株式または出資の価額が、次に掲げるような場合に該当して増加したときは、その株主または社員がその株式または出資の価額のうちに増加した部分に相当する金額をそれぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとみなされ、贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があったとき、債務の免除があったとき、または財産の譲渡があったときによるものとします。

イ.会社に対して無償で財産の提供があった場合…その財産を提供した者
ロ.時価より著しく低い価額で現物出資があった場合…その現物出資をした者
ハ.対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合…その債務の免除、引受又は弁済をした者
ニ.会社に対し著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合…その財産を譲渡した者

<例>
債務免除が行われると、法人側は債務免除益が計上され、純資産額増加を通じて、株主所有持分価値が増加します。

この点、1人オーナーの場合は、オーナー個人の債権放棄損と、法人側の株式価値増加部分が相殺され、実質価値の増減はありませんが、オーナー社長以外に株主がいる場合は、社長貸付金の債務免除により、純資産増加を通じて、オーナー社長から他の株主への株式価値の移転が生じます。

同族会社では、当該「所有株式価値の移転部分」は、債権放棄した株主から他の株主に対する贈与とみなされ、贈与税の課税対象になります。(相法9条、相基通9-2(3))

金銭の贈与はありませんが、間接的に株式価値の実質増加という経済的利益を取得する点に着目し、贈与とみなされます。(贈与の額=債務免除後の株式価額-債務免除前の株式価額)

<参考裁決>
同族会社に対する債務免除について、みなし贈与が適用された最近の裁決例
令和4年3月17日裁決(大裁(所・諸)令3第38号)

渋谷事務所
串田 美幸

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