養護老人ホームの空室とセーフティネット法の活用
全国老人福祉施設協議会の調査によると、全国の養護老人ホームの平均入居率は2022年度が87.2%で、2018年度から5年間で3ポイント落ち込んでいるそうです。
養護老人ホームの収入は自治体からの運営費で賄われています。自治体の財政如何で予算が抑えられ、入所対象者に対する措置を自治体が積極的に行わず、いわゆる措置控えと称される傾向も見受けられます。慢性的な空床の継続は、地域の資源が活用されないのでは?と受け取られても仕方ないのではないでしょうか。
これらを解消すべく、「養護老人ホームにおける契約入所及び地域における公益的な取組の促進について」通知によって、その定員のうち20%の範囲内であれば本来の入所対象者以外の「契約入所」が認められています。
契約入所は、「居住に課題を抱える者」を入所対象としており、具体的には次の方々が例示されています。
1 低額所得者(月収 15.8 万円(収入分位 25%)以下)
2 被災者(発災後3年以内)
3 高齢者
4 障害者
5 子ども(高校生相当まで)を養育している者
6 住宅の確保に特に配慮を要するものとして国土交通省令で定める者
・ 外国人等(条約や他法令に、居住の確保に関する規定のある者を想定しており、外国人のほか、中国残留邦人、児童虐待を受けた者、ハンセン病療養所入所者、DV被害者、拉致被害者、犯罪被害者、矯正施設退所者、生活困窮者等)
・ 東日本大震災等の大規模災害の被災者(発災後3年以上経過)
・ 都道府県や市区町村が供給促進計画において定める者
これらの方々は、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」に規定されている「住宅要配慮者」のことを指します。国土交通省の資料によれば、一定割合の賃貸人(大家等)が住宅確保要配慮者の入居に対し拒否感を有しており、その理由として他の入居者・近隣住民との協調性に対する不安、家賃の支払いに対する不安、居室内での死亡事故等に対する不安などが挙げられています。
一方、住宅要配慮者である高齢者の単身世帯は、約7割が持ち家に居住、約3割が借家に居住されており、2020年に約630万世帯であった単身高齢者世帯は、2030年には約800万世帯に増加することが見込まれています。高齢者が必要とする住居の需要に対して供給が追い付くのかといった不安も付きまといます。
養護老人ホームが契約入所を活用することは、施設にとってみても地域の資源が活用され入居率の向上につながるといったメリットや、住宅要配慮者の方々も社会福祉法人が経営する住居を選択肢にあげることができるといったお互いメリットある内容なのではないでしょうか。
厚生労働省通知「養護老人ホームにおける契約入所及び地域における公益的な取組の促進について」の内容につきまして疑問点ございましたらコンパッソ税理士までお問い合わせください。
参考資料
全国老人福祉施設協議会「令和4年度 養護老人ホーム被措置者数等調査結果」
国土交通省「住宅セーフティネット制度の現状について」
横浜青葉事務所 畠山安定