贈与税の配偶者控除 ~分筆する必要はあるか~
贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できるという特例が、いわゆる贈与税の配偶者控除です。
生存配偶者の老後の生活安定に対する配慮から設けられた制度で、昭和41年の創設時は婚姻期間は25年以上、そして控除額は最高160万円でした。
その後、婚姻期間については昭和46年に20年に引き下げられ、控除額については段階的な引上げを経て、昭和63年から現行の最高2,000万円となっています。
贈与税の申告が必要
この特例の適用を受けるためには、贈与税が0円であっても贈与税の申告書を税務署に提出する必要があります。
財産をもらった配偶者が、もらった年の翌年の2月1日から3月15日までの間に行います。
その際、贈与税の申告書のほかに、次の4種類の書類を添付する必要があります。
〇戸籍謄本
・・・ 婚姻関係・婚姻期間の証明となる。
〇戸籍の附票の写し
・・・ 住所の証明で、居住用であるかの参考となる。
〇居住用不動産を取得したことを証する書類
・・・ ・所有権の移転登記後の登記事項証明書(登記簿) ・贈与契約書 等
〇居住用不動産を評価するための書類(※金銭の贈与の場合は不要)
・・・ ・固定資産評価証明書 ・土地の評価明細書 等
特殊なケースⅠ 店舗兼住宅の場合
この特例は、居住用不動産に係る特例です。
では1階が店舗で2階が自宅といった場合にはどのような取扱いになるでしょうか。
その場合は次の算式で居住用部分を計算します。
⑴家屋
次の①と②の合計面積に相当する部分
①自宅部分の床面積(A)
②店舗と自宅で併用されている部分の床面積(B)× ((家屋全体の床面積 – B) ÷ A)
⑵土地
次の①と②の合計面積に相当する部分
①専ら自宅部分の土地の面積
②店舗と自宅で併用されている部分の土地の面積 × (家屋全体の床面積 ÷ ⑴で計算した家屋の床面積)
上記算式で居住用部分を計算し、その居住用部分のみの贈与が行われた場合、その評価額全部が2,000万円控除の対象となります。
ところで、贈与を受けた居住用部分の土地や家屋については、一般的に、その贈与を受けた割合(持分)を不動産登記することになります。この場合、不動産登記簿からは全体のうち、どれくらいの割合が贈与を受けた配偶者の名義になったということは分かりますが、それが居住用部分か店舗部分かということまでは分かりません。
言い換えれば、不動産登記簿のみを見ると、店舗部分を含んだ全体のうち一定割合の贈与を受けたと考えられなくもないわけです。
ただし、この場合でも上記算式で適正に居住用部分を計算している場合は、税務上は居住用部分のみの贈与を受けたものとして取り扱われます。土地についてわざわざ分筆して登記しなければならないといったことはありません。
特殊なケースⅡ 一筆の土地に自宅と賃貸アパートが建っている場合
それでは、一筆の広い土地の上に、自宅と賃貸アパートがそれぞれ独立して別に建っている場合はどのような取扱いになるでしょうか。
ケース①をふまえると、その土地について、自宅と賃貸アパートの床面積等の比で居住用部分を計算して、その割合を不動産登記すればOKという感じがします。
しかし、このケース②は取扱いが異なります。
国税当局と納税者がこのケース②について、国税不服審判所(公正な第三者的立場で審理を行い、裁決を行う機関。裁決は行政部内の最終判断となる。)で争った事例があります。
概要は次のとおりです。
国税当局の主張
不動産登記の内容から客観的に判断すると、贈与を受けた土地には、賃貸アパートに係る部分も含まれていることが明らかであり、この部分については居住用ではないから、贈与税の配偶者控除の適用はない。
納税者の主張
ケース①の取扱いが税務上認められていること等を理由に、このケース②でも同様の取扱いをすべきだ。
国税不服審判所の判断
ケース①は、法律上も実際の利用上も明確な分割ないし分離が困難な家屋について、その居住用部分のみを贈与するというのが贈与当事者間の通常の意思と解されるため、立法趣旨にかんがみ例外的に認められた取扱いである。
ケース②は、明確な分割ないし分離が可能であるから、ケース①と同様とは言えない。
したがって、国税当局の対応は適法である。
つまり、このケース②については分筆することが可能であるから、一筆の土地を自宅部分の敷地と賃貸アパートの敷地とに分筆して、居住用部分をはっきりさせないと、全部を居住用とは認めない取扱いというわけです。
これは具体的事案について争われたものですから、類似する全てのケースに当てはまるとは限りませんが、大いに参考になります。
贈与税の配偶者控除は、相続にも関わってきます。一次相続・二次相続の試算等と合わせて、有効に活用しましょう。
渋谷事務所 資産部 加藤義隆
本社(渋谷事務所)
出典元:
国税不服審判所裁決事例集№62 329頁 平成13年9月13日裁決
国税不服審判所HP(20210525)
国税庁HP №4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除(20210518)
国税庁 HP №4429 贈与税の申告と納税(20210520)
相続税法基本通達逐条解説平成30年12月改訂版 ( 一財)大蔵財務協会 大野隆太編 )