社会保険労務士<事務所通信’20/5月>
新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた職場における対応
新型コロナウイルス感染症の大規模な感染の拡大防止に向けて、厚生労働省から労使団体に向けた要請が出されました(「新型コロナウイルス感染症の大規模な感染拡大防止に向けた職場における対応について(要請)」令和2年3月31日)。以下に、その内容を紹介します。また、これには、参考資料として「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」が添付されていますので、是非ご活用下さい。
◆職場内での感染防止行動の徹底
感染拡大防止には、換気の悪い密閉空間、多くの人が密集、近距離での会話の3つの条件が同時に重なる場を避けることが重要であり、職場においては次の対策が求められます。
◆風邪症状を呈する社員への対応
発熱、咳などの風邪症状がみられる社員(風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている場合など)については、新型コロナウイルスに感染している可能性を考えた労務管理をすることとし、具体的には、出勤免除(テレワークの指示を含む)を実施するとともに、その間の外出自粛を勧奨するなど、「出勤しない・させない」の徹底を全員に求めること。
特に、高齢者や、基礎疾患がある方、免疫抑制状態にある方、妊娠している方についての配慮が求められます。
◆自宅環境整備の実施率
最も多かったのは、「リビングダイニング」(59%)で、そのうち専用のスペースがあるのは20%。その他、「書斎等専用ルーム」(19%)、「カフェ・喫茶店」(12%)、「寝室・ベッドルーム」(10%)と、圧倒的に自宅で働く人が多いようです。
テレワーク実施にあたり、自宅を仕事に適した環境に整えたかという質問では、70%が「環境を整えた」と回答しています。その内容として、「仕事の資料・PC置き場・収納スペースを作った」(28%)、「ネットワーク環境を整えた」(26%)、「モニター・プロジェクター等用意した」(24%)が挙がり、金額的には、10万円以下を費やした割合が64%と過半数を超えています。
◆その他
賃貸住宅居住者に至っては、現在の住宅にシェアオフィスやコワーキングスペースが備わる場合、66%が「家賃が上がっても良い」と回答しています。また、テレワークをきっかけに、「引越しをした」割合が10%、また「前向きに検討している・してみたい」と回答した割合が42%ありました。
【リクルート住まいカンパニー「「テレワーク×住まいの意識・実態」調査結果」】
https://www.recruit-sumai.co.jp/press/2020/02/70.html
◆新型コロナウイルス感染症の陽性者等が発生した場合の対応
社員が陽性者等であると判明した場合、速やかに会社へ電話・メール等により報告すること(報告先の部署・担当者、報告のあった情報を取り扱う担当者の範囲等)、社員が陽性者等になったことをもって、解雇その他の不利益な取扱いや差別等を受けることはないこと、必要に応じ、休業や賃金の取扱いなどに関することなどについての対応ルール等を決め、社員に周知します。
【厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の大規模な感染拡大防止に向けた職場における対応について労使団体に要請しました」】
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10631.html
※職場における新型コロナウィルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト
https://compasso.jp/images/cde9b9cfefecbcf7da28525275643e43.pdf
新型コロナウイルス感染症による雇用調整助成金の特例措置拡大について(4月24日時点)
◆対象労働者・対象業種を拡大
新型コロナウイルス感染症の感染拡大による休業要請や営業自粛が広がり、雇用調整助成金の活用を検討する事業者が増えています。
厚生労働省では、4月1日から6月30日までの間の休業等について、雇用保険被保険者でないパート、アルバイト等週当たりの労働時間が20時間未満の労働者、4月入社で1日も出社していない新入社員の休業等も対象としています。また、風俗関連事業者の休業等も対象としています。
◆解雇なしで9/10、解雇ありは4/5の助成
助成率が引き上げられ、解雇等を行わない中小企業の場合は9/10(従前は2/3)、大企業でも3/4(従前は1/2)となっています(解雇等を行った場合は、中小企業4/5、大企業3/4)。
◆自動計算機能付き様式、記載事項・添付書類の省略等により手続きを簡素化
休業等実施計画届等の事後提出が認められているだけでなく、支給申請書に自動計算機能が組み込まれ、記載事項が大幅に削減されています。
また、添付書類の労働保険料に関する書類が不要となったり、休業・教育訓練の実績に関する書類として手書きのシフト表や給与明細の写しでもOKとされたりするなど、手続きが簡素化されています。
今回の感染症が経済に与える影響は深刻かつ長期化する可能性が高いと思われますが、休業等による雇用の維持を図らず、労使関係が悪化して、終息した時に従業員が残っていないなどとなれば、事業を再開し業績を回復させることもできません。
助成金を活用した雇用の維持をぜひご検討のうえ、当事務所にご相談ください。
新型コロナウイルスによる厚生年金保険料等の納付猶予制度
日本年金機構のホームページに、厚生年金保険料等の納付猶予について、次のとおりお知らせが出ています。
新型コロナウイルスの影響により、厚生年金保険料等を一時に納付することにより事業の継続等を困難にするおそれがあり、一定の要件に該当する場合、厚生年金保険料等を分割納付できる仕組みがあります。事業主の方は、納付すべき厚生年金保険料等の納期限から6月以内に「換価の猶予」の申請ができます。
また、災害等によって事業所の財産に相当な損害を受け、厚生年金保険料等の納付が困難となった場合は、事業主の方からの申請に基づき、保険料等の「納付の猶予」を受ける制度があります。
◆「換価の猶予」の概要
申請要件は、次のすべてに該当することです。
a 厚生年金保険料等を一時に納付することにより、事業の継続等を困難にするおそれがあること
b 厚生年金保険料等の納付について誠実な意思を有すること
c 納付すべき厚生年金保険料等の納期限から6か月以内に申請されていること
d 換価の猶予を受けようとする厚生年金保険料等より以前の滞納又は延滞金がないこと
e 原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
換価の猶予が認められた場合は、
① 猶予された金額を猶予期間中の各月に分割して納付することになります。
② 猶予期間中の延滞金の一部が免除されます。
③ 財産の差押や換価(売却等現金化)が猶予されます。
猶予期間は、原則1年の範囲内で年金事務所が認めた期間となります。
◆「納付の猶予」の概要
猶予の要件は次のとおりです。
a 次のいずれかに該当する事実があること
・財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にあったこと
・事業主又はその生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと(個人事業所)
・事業を廃止し、又は休業したこと等)
b aの該当事実により、納付すべき厚生年金保険料等を一時に納付することができないと認められること
c 申請書が提出されていること
d 原則として、猶予を受けようとする厚生年金保険料等の金額に相当する担保の提供があること
納付の猶予が認められた場合の効果は、上記「換価の猶予」と同じです。
詳しくは、下記ホームページをご覧の上、管轄の年金事務所までお問い合わせください。
【日本年金機構「新型コロナウイルス感染症の影響により厚生年金保険料等の納付が困難となった場合の猶予制度について」】
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202003/20200304.html
5月の税務と労務の手続提出期限
[提出先・納付先]
【11日】
[公共職業安定所]
【15日】
【6月1日】
当事務所よりひと言
◆新型コロナウルイスによる自粛規制の終息には今後長い時間を要することが想定されます。経営者の方々にとっては、労務管理においても難しい対応を迫られることが数多くあると思います。
雇用調整助成金は、更なる追加特例により、要件を満たせば、支払った休業手当の10割支給、との発表がありました。(支給上限日額8,330円は変更なし。5月1日現在) 『雇用調整助成金ガイドブック』の最新版(令和2年4月24日現在)をご活用下さい。
社会保険料の納付も、特例により、事業収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること等の要件を満たせば、担保不要、延滞金もかからず、1年の納付猶予、と発表されました。
◆36協定届の記載例です。令和2年4月1日より中小企業にも時間外労働の上限規制が適用となったことにより、4月1日以降に有効期間が開始される協定届は新様式での届出が必要となります。
◆令和2年4月分より、子ども・子育て拠出金率が改定されました。(0.34% → 0.36%)
子ども・子育て拠出金は、事業主が全額負担するため、給与から控除する社会保険料額に変更はありません。
(今月の担当:重森 光代)