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原価計算と原価管理について

原価計算、生産管理など従来主流だった経営管理手法は第二次世界大戦後の「モノ不足時代」に適したものであり、つくれば売れる状況だったので、プロダクトアウト(Product Out)が原則で、販売の前工程に当る生産の合理化や原価の計算が重要でした。つくれば売れることを大前提にすれば、生産性のアップ、品質の向上、原価低減に向けた管理とその計数面での基礎となる原価計算に取り組めば良かった訳です。

しかし、経済成長に伴うサービス産業化(産業構造の高度化)や市場の成熟化(消費者ニーズの多様化)が進行し、「モノ余りの時代」に入ると、マーケットイン(Market In)が原則となり、売れること(≒販売やマーケティング、販売代金の回収)が最優先されるようになってきました。19世紀のイギリス資本主義を分析したと言われるK.マルクスの『資本論』にある通り、資本および貨幣の循環・回転式でいう「M(貨幣)⇒C(商品)≒MP(生産手段)とL(労働力)⇒P(生産)⇒C(製品)⇒販売してMを回収」が円滑に回っていくためには、各⇒部分毎に節目がありますが、最後の⇒部分、即ち「売れ残らずに本当に売れるのか?」という問題について、「命懸けの跳躍」と表現しています。

現在から見れば「モノ不足時代」の19世紀ですら売れることは大問題だったのです。売れないものをいかに効率良く生産しても意味がない(⇒不良在庫の山となり資金と資源が無駄になる)ほか、その原価をいくら精緻に計算・管理してもまったく意味がないからです。逆から見れば、売れること(販売実績)を前提にした原価計算と原価管理は必要です。

原価計算の基本コンセプトは、実際に発生した製造原価を製品別に論理的に割り付けていくことですが、実務での大事なポイントは次の2つです。
①大原則として、コストを計算するために(余分な)コストをかけないこと。
②補足として、コストを下げるために(必要な)コストはかけることです。
要するに、「最小の費用で最大の効果を上げる」ために、自社の実態に応じて具体的に工夫して現実的に妥協することです。

原価計算の主な手順は次の3つのステップに分けられます。
①費目別計算: 原価を材料費、労務費、その他製造経費の3つに大別して集計し、
②部門別計算: 製造部門と補助部門〈設計・品質管理など〉に分けて部門別に集計し、
③製品別計算: 上記の費目別計算や部門別計算を踏まえて、直接原価は「賦課」(直課)し、間接原価はある一定の基準で「配賦」して、製品別に原価を算定します。なお、この製造間接費用の配賦をより実態により近づけるために、活動基準原価計算(Activity Based Costing)が開発され大企業で活用されていますが、中小企業向きではありません。

この最後の製品別計算は3つの観点から6つの原価計算に分けられます。
①範囲の観点から、全部原価計算(制度会計)と直接原価計算(管理会計)、
②金額の観点から、標準原価計算(損益分岐点分析が可能です)と実際原価計算、
③単位の観点から、総合原価計算と個別原価計算(受注生産に向きます) です。

実際にはこの6つの原価計算を3つの観点毎に組み合わせて使うので、合計8通りの組み合わせになります。例えば、全部×実際×個別という組み合わせです。自社にとってどの原価計算の組み合わせが適しているのか、顧問の会計事務所を入れて十分に検討することをお勧めします。

参考文献:岡本清『原価計算』(第6訂版、2000年)
柴山政行『最新原価計算の基本と仕組みがよく分かる本』(第3版、2019年)

渋谷事務所
多田恵一

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