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【解説】タワマン節税最高裁判決 更正処分取消請求事件 納税者側敗訴確定

この事案は相続した不動産の相続税申告における評価方法を巡って、
納税者と課税当局で争われた事案です。いわゆる「タワマン節税」にNGを突き付けられる結果となりました。

<概要>


本件被相続人は平成24年に94歳で死亡し、本件相続が開始。
相続人は配偶者である妻F、長女D、長男B、二男Gと、養子であるE(Gの子)の5名である。
本件で問題となる物件2つを相続したのは養子のEである。
当該不動産は平成21年1月と12月に被相続人が購入したものであった。
原告であるEらはこの物件の相続税申告において、評価通達の定める評価方法(路線価)によって算出し、相続税の総額を0円とした。
これに対し、国税庁長官は路線価による評価では、実質的な租税負担の公平を著しく害し不当な結果を招来すると認められるとし、他の合理的な評価方法を用いることを札幌国税局長へ指示した。
その結果、2つの物件の不動産鑑定額から相続税約2億4千万円の更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分をした。この処分の取消を求めて争いとなった。

購入額 評価通達額 売却価格
相続人の主張
(路線価・通達評価額)
課税当局の主張
(不動産鑑定)
東京の物件 8億3700万円※1 2億4万1474円 7億5400万円 売却せず
神奈川の物件 5億5000万円※1 1億3366万4767円 5億1900万円 5億1500万円※3
相続税の額 0円※2 2億4049万8600円

※1 東京の物件は、相続開始の約3年5か月前、神奈川物件は約2年6か月前
※2 購入時の借入れと相殺するなど
※3 売却時は、相続開始の約9か月後

<裁判所の結論>


相続税法22条は相続によって取得した財産の価額は時価とすることを定める。
そして、評価通達は、その時価の評価方法を定めている。
しかし、それは上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するための通達であって、国民に対して法的効力を有するものではない。つまり、相続税の課税価格は、取得時の時価を上回らない限り、相続税法22条に違反するものではない。
本件において、課税局が行った鑑定評価額は時価であると認められるので、評価通達の方法(路線価)によって算出した額を上回るからといって、相続税法22条に違反するということはできない。

租税法上の平等原則は、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものである。
課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達(路線価)で算出した価額を上回る取扱いにすることは、平等原則に反して違法というべきである。しかし、画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合には、合理的な理由があるので、平等原則に反するものではない。
本件において、評価通達で算出した価額と、鑑定評価額との間には大きなかい離があるが、それが“租税負担の公平に反するというべき事情”とは言えない。しかし、本件の物件購入・借入が行われなければ課税価額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、購入・借入を行い、評価通達の定める方法を使用すると0円になるのであるから、相続人の負担は著しく軽減されることになる。そしてそれは、相続税の負担を減らす意図であえておこなっているといえる。
そうすると、こうした購入・借入れのような行為をしない、又はできない他の納税者との間で不均衡が生じる。これは実質的な租税負担の公平に反するというべきである。つまり、本件において画一的な評価(路線価)以外の方法を採用することは平等原則に違反しない。

<ポイント>


1、被相続人は亡くなる3年前に物件を購入している
2、地裁において、被相続人が物件購入の為に借入した銀行の稟議書に「相続対策」という記載があったことが認められている
3、相続人Eが、相続後約1年で神奈川の物件を5億1500万円で売却している

<コンパッソ税理士の見解>


■社員:白井
この裁判で期待されたことは、「伝家の宝刀」といわれる「財産評価基本通達」の「著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」というものに、何らかの基準が示されるのではないかということでした。しかし、残念ながらその基準は示されませんでした。
路線価が絶対でないとすると、納税者は何をよりどころにすべきか分からなくなってしまいます。路線価と実勢価格のかい離がどの程度ならいいのかもわかりません。
今後の対策としては、
とにかく早め早めに対策に動くということ。
節税以外の購入目的を明確にすること。
行き過ぎた節税対策は指摘の可能性に考慮することなどが必要になるでしょう。

■所属税理士:田中
著しく公平性を害し、不当な結果をもたらしたとされた発端は、課税価格の合計額が6億円を超えたにもかかわらず、相続税の総額が0円になっていたことです。また、当該行為は、相続対策として、節税を企画して行われた行為として認定されています。
何が不適当かという基準は、今後の方向を注視する必要がありますが、明確な基準を出すことは難しく、判例の積み重ねに委ねることとなり、また、著しく不公平という事実が、当局及び司法においてどう捉えられるかからの判断になります。
通達は、あくまでも行政機関の職務権限の行使を指揮したもので、法律で補えない解釈、取扱、執行等の面を補っているものの、評価額が不当とみなされた場合には時価であるという法律の原則に立ち戻っています。
法の趣旨に反した節税が、著しく不当に税額が減少される一連の行為からは、否認される可能性が高いということは想定しておかなくてはなりません。

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