配偶者居住権
40年振りとなる民法改正で配偶者居住権が創設されたことは記憶に新しいかと存じます。
そこで今回は配偶者居住権の内容と活用方法について少々触れていきたいと思います。
配偶者居住権
法務省の資料によりますと、配偶者居住権を「配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利」としております。
配偶者居住権の利用により相続のパターンが増えますので次の事例にて少しご紹介致します。
事例:夫が死亡し、相続人は配偶者と子の2名です。
夫の遺産は、自宅(土地建物)と預貯金ですが、評価額は建物が1,000万円、土地
が2,000万円、預貯金が1,000万円の合計4,000万円と致します。
また、配偶者居住権の評価額が仮に1,500万円と致します。
遺言書などがなかったため遺産分割協議を行いますが法定相続分にて分割すること
が前提となった場合のケースをご案内致します。
ケース1 配偶者居住権を利用しない場合
配偶者が自宅(土地建物)を相続する場合には配偶者の相続財産は3,000万円となり、子は預貯金の1,000万円を相続するが法定相続分で計算する2,000万円(4,000万円×2分の1)に満たないため差額1,000万円を配偶者が子に支払う義務を負うこととなります。
仮に、夫が残した遺産のすべてを折半にするとした場合、自宅を配偶者と子で共有財産とし、預貯金は500万円ずつ相続するとします。配偶者は支払い義務は負いませんが、自宅不動産が共有となるため配偶者には自宅を単独で専有使用できる権利がありません。
専有使用するためには家賃相当額の支払義務を負うこととなります。
ケース2 配偶者居住権を利用する場合
配偶者居住権の制度を利用しますと、配偶者は配偶者居住権1,500万円と預貯金500万円を取得し、子は、自宅の所有権(配偶者居住権の負担付き。評価額は3,000万円‐1,500万円(配偶者居住権)=1,500万円)と預貯金500万円を相続することができます。
この場合ですと終身又は一定期間において配偶者は自宅の専有使用が認められることとなります。
配偶者居住権を利用するためには手続きが必要となりますので成立要件とともに御案内致します。
配偶者居住権が発生する3要件
① 被相続人の配偶者であること
法律婚の配偶者を指します。すなわち婚姻届出をしていない者(事実婚)や同姓パートナーは配偶者居住権を取得することはできません。
② 被相続人の相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと
被相続人所有の建物がその配偶者と共有している場合は「被相続人所有」の建物に該当しますが、被相続人が配偶者以外の第三者と共有にしている場合は配偶者居住権を成立させることはできません。
③ ②の建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、または遺言、もしくは死因贈与のいずれかがあること。
遺産分割の場合には分割協議、調停、審判が御座いますが分割協議の場合には協議書に配偶者居住権の対象となる建物を特定した上で、配偶者が当該建物に対する配偶者居住権を取得する旨を記載する必要が御座います。配偶者居住権の存続期間を明記しない場合には、存続期間は配偶者の終身となります。
調停の場合には調停の際に相続人全員から配偶者居住権の設定に対し合意をとる必要が御座います。
調停においても遺産分割に合意が取れなかった場合に審判となりますが、審判の場合には家庭裁判所にて分割が決定され、審判中に相続人間で合意がなされた分割についてはそれを認めることとなります。
配偶者居住権の合意がない場合には配偶者は家事審判官に配偶者居住権の設定を申し出る必要が御座います。
遺言の場合には遺言書に配偶者居住権を遺贈する旨の記載が必要となります。遺言書の場合には「遺贈」と「相続させる」の2通りの表現が使用されますが、仮に配偶者居住権を相続させると記載があった場合には当該配偶者居住権は遺贈にあたると解釈されます。
死因贈与は贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与ですが、遺言者の単独行為である遺贈とは異なり、死因贈与は契約であるため、贈与者と受贈者が生前に死因贈与の合意(契約)をすることにより成立致します。
出典:「TKC全国会資産対策研究会」/法務・税務からみた配偶者居住権のポイント
コンパッソ税理士法人
東京練馬事務所資産税課
伴 長憲