減損会計について
経営再建中であるジャパンディスプレイが2019年5月に747億円の特別損失、2019年8月には514億円の特別損失計上を発表しました。
その実態は減損損失の計上でしたが、この「減損」とはどのような仕組みなのか確認していきます。
《減損について》
減損とは固定資産に関する会計処理方法の一つであり、具体的には投資金額の回収が出来ないと判断された時点で回収が見込める金額まで固定資産の価値を下げる会計処理のことを言います。イメージしやすく解釈すると、固定資産は事業活動で会社のキャッシュを増やすという価値がありますが、その資産が将来をみてもキャッシュを生み出す力を見込めない場合には、その資産の力に見合った価値に評価し直すということです。
《減損処理の必要性》
このような会計処理を行う理由として、固定資産の実質的な価値が帳簿に記載されたものよりも下回っているにもかかわらず、その実態が財務諸表に反映されていないのは非常に危険であり、企業だけではなく投資家の観点からみても投資判断に影響を与える恐れがあるからです。
《減損処理の対象資産》
減損処理の対象となる固定資産を列挙すると、有形固定資産、無形固定資産、投資その他資産の3種類が挙げられます。
《減損処理と減価償却の違い》
固定資産の価値を減少させるという観点では同じですが、減損処理は将来得られるキャッシュの減少を理由に資産価値を減少、減価償却は資産の経年劣化を理由に資産価値を減少させる為、意味合いが異なります。また、前者は一度に多額の損失を計上、後者は毎年固定資産の価値を減少させ費用計上するという点でも異なります。
《減損処理のメリット》
減損処理を行うことで期間収益と期間費用をよりリアルに把握することができます。また、当年は大きな損失計上となりますが、資産価値が減少し、その資産に対する減価償却が減少することで相対的に次期以降の利益増加に繋がります。つまり、業績回復の一手とも言えます。実例を挙げれば、ジャパンディスプレイの2019年10月期(単月)は固定資産の減損や人員削減により営業利益及び最終利益ともに黒字となりました。
《減損処理のデメリット》
処理をした当年は大きく損失を計上することで大赤字となり、創業以来積み重ねてきた繰越利益剰余金に多大な影響を与える可能性があります。また、減損処理は投資の失敗を意味することから、投資家の信用を損なう恐れもあります。
《減損処理のタイミング》
資産価値が大幅に下落している、または、2期以上にわたり赤字でキャッシュフローもマイナスである、景気後退などの理由により経営環境が著しく悪化した等に該当する場合には減損処理を検討する必要があると判断できます。
《税務上の減損》
税務上では減損に対する規定は定められておらず、類似する評価損の規定が定められています。固定資産の評価損は原則として損金不算入であり、災害による大幅な資産価値の減少や1年以上に渡り固定資産が有給状態にある等、特殊なケースにおいては例外的に損金算入が認められます。ただし、現行の税制上では損金算入になるケースは殆ど無く、申告調整が必要となります。
減損は償却費として損金経理した金額に含まれます。所謂、償却限度額を計算する際、
当期の減価償却費に減損計上額が含まれるということになります。税務上の償却限度額を超過した金額が償却超過額となり、別表四において償却超過額として申告加算を行う必要があります。減損計上の翌年以降については、会計上の減価償却費(減損控除後の資産に基づく)と税務上の減価償却費(減損控除前の資産に基づく)では差額が生じる為、その差額は別表四において償却超過額容認として申告減算を行います。
《まとめ》
今回は減損会計の大まかな仕組みについて説明した為、固定資産のグルーピングや減損兆候の把握、減損損失の認識や測定、算出方法等については省略しています。今後、コロナの影響が長引くことによって、減損処理の検討を要する法人が出てくる可能性があります。その際、業績回復の一つの方法として説明出来るように、今一度、減損会計について学んでみる必要があると思います。
【参考】国税庁HP:(償却費の損金経理)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_05.htm
旭事務所
小倉 和徳