特別寄与料制度について
1.特別寄与料制度の概要
改正民法第1050条では、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。」と定められており、この制度を「特別寄与料制度」といいます。この制度は令和元年7月1日以後開始の相続について請求することができます。
2.背景
改正前民法でも寄与分(民法904条の2)の制度はありましたが、この制度は相続人に限定されているため、相続人以外の者が被相続人の療養看護や被相続人の財産の維持又は増加に貢献しても遺産の分配を請求することは困難でした。そこで、新たに、相続人以外の者の貢献等に配慮するため特別寄与料の制度が創設されました。
3.特別寄与者
特別寄与者とは、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族です。特別寄与者とは、全ての相続人以外の者が該当するのではなく、民法上の「親族」※1に限定されています。
※1親族の範囲(民法第725条)
次に掲げる者は、親族とする。
- 六親等内の血族
- 配偶者
- 三親等内の姻族
4.特別寄与料
特別寄与者は、相続人に対し特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払を請求できます。特別寄与料の金額は、基本的には、特別寄与者と相続人の協議により決定しますが、協議がまとまらない場合は、家庭裁判所が特別寄与者の請求により寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定めます。※2
※2請求期間(民法第1050条ただし書)
①特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内
②相続開始の時から最長で1年以内
5.課税
特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合においては、その特別寄与者が特別寄与料の額に相当する金額を特別の寄与を受けた被相続人から遺贈により取得したものとみなし、特別寄与料の額が確定した日から10か月以内に相続税の申告を行う必要があります。(相続税法第4条 第2項)又、特別寄与者は相続人ではないため、相続税額の2割加算※3の適用対象になります。
※32割加算(相続税法第18条)
相続又は遺贈により財産を取得した者がその相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、規定により算出した金額に100分の20に相当する金額を加算する。
特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額がその特別寄与者に係る相続税の課税価格に算入される場合においては、その特別寄与料を支払うべき相続人の相続税の課税価格は、負担した特別寄与料の額を債務として控除した金額によります。(相続税法第13条 第4項)又、期限内申告を行った後に特別寄与料の支払いが決まった場合は、4か月以内に更正の請求を行い、相続税の還付を受けることができます。
6.考察
特別寄与料は特別寄与者と相続人との協議により決定するため、協議がまとまらない場合も考えられます。その場合、特別寄与者の請求により家庭裁判所が特別寄与料を定めますが、時間的・精神的にも多くの負担が生ずることになります。負担に比べ特別寄与料の額は100万円から200万円程度のみと推察されます。
①東京高裁平成22年9月13日決定
相続人の妻による13年間の介護を、相続人の履行補助者として相続財産の維持に貢献したものと評価 寄与分200万円
②東京家裁平成12年3月8日審判
相続人の妻及び子による7年間の介助行為を、相続人の履行補助者的立場にある者の無償の寄与行為として評価 寄与分170万円
以上より、特別の寄与が行われている状況になった場合には、次のような方法も検討されることをお勧めします。
事例
被相続人(亡くなった方) 父
特別寄与者 長男の嫁
①父は遺言書を作成し、長男の嫁に財産を遺贈する旨を記載する。
課税 相続税
- 2割加算の適用対象
- 相続開始前3年以内の贈与※4加算適用対象
②長男の嫁が父の養子となる。
課税 相続税
- 相続時精算課税制度※5の利用可能
- 相続開始前3年以内の贈与加算適用対象
③父から長男の嫁へ生前に贈与する。
課税 贈与税
- 年110万円までは非課税
- 相続開始前3年以内の贈与加算適用なし
④父を契約者・被保険者、長男の嫁を受取人とする生命保険に加入する。
課税 相続税
- 生命保険の非課税枠※6なし
- 2割加算の適用対象
- 相続開始前3年以内の贈与加算適用対象
⑤父の介護を有償とする。
課税 所得税
- 家事使用人として雑所得
※4相続開始前3年以内の贈与(相続税法第19条)
相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続が開始する前3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与により取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産(非課税財産を除きます。)の価額を相続税の課税価格に加算した上で、相続税の総額や各相続人等の相続税額を計算します。
※5相続時精算課税制度
相続時精算課税を選択した贈与者ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して贈与税がかかります。 また、前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります。ただし、相続の時に贈与された財産と相続された財産を合算して計算し直すため、将来の相続時に相続税がかかる場合があります。
※6生命保険の非課税枠(相続税法第12条)
死亡保険金の受取人が相続人である場合、全ての相続人が受け取った保険金の合計額が500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額を超えるとき、その超える部分が相続税の課税対象になります。
7.まとめ
新たに相続人以外の者の貢献等に配慮するため、特別寄与料の制度が創設されましたが、特別の寄与が行われている状況になった場合には、上記の考察に記載のような方法も検討されることをお勧めします。それぞれの方法を実行するには時間が掛かります。後に後悔することのないように事前の検討が不可欠です。
参考文献 https://www.nta.go.jp/index.htm
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
家裁月報52巻・63巻
千葉流山事務所
金子真奈美