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住宅におけるインスペクション(建物状況調査)

 我が国における既存住宅(中古住宅)の流通シェアは約15%と、アメリカの約83%、イギリスの約87%といった欧米諸国と比較して非常に低い水準にとどまっています。
 2010年にピークとなった我が国の総人口はその後減少に転じ、2060年にはピーク時に比べ3割を超える減少幅となる見通しです。
 また2013年の全国の住宅ストック数は総世帯数に対して約16%多く、量的には充足していることが分かります。
人が住んでいない住宅の総数はこの10年(2003~2013年)で2割増加し、賃貸用または売却用住居で現況としての空き家が全体の5割強を占めてはいるものの、全国的にも問題となっている誰も住む予定のない、いわゆる空き家は1.5倍と増加し、全体の4割弱までになっています。
 このような背景の下、既存住宅の流通を促進することにより、既存住宅市場規模の拡大を図り、住宅ストックビジネスを活性化させ、ライフステージに応じた住み替え等により、多様で豊かな安心して暮らすことができる住生活の実現が社会的にも望まれています。
 しかしながら既存住宅の取引には不具合や老朽化の程度といった、建物の質や状態に関して不安に感じている購入者は少なくありません。また既存建物は個人間で売買されることが多く、一般消費者である売主に情報提供や瑕疵担保の責任を負わせることは困難なのが実情です。
 そのため不動産取引のプロである宅建業者が、専門家によるインスペクションの活用を依頼主に促すことにより、売主・買主が安心して既存住宅の取引ができる環境の整備を図ることを目的に、インスペクションを説明義務化する改正宅建業法が2018年4月1日から施行されました。
 住宅におけるインスペクションとは建物状況調査ともいわれ、既存住宅の基礎、外壁等の部位ごとに生じているひび割れ、雨漏り等の劣化、不具合の有無を目視・計測等により調査するものです。インスペクションは国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)が実施します。
 既存住宅の売却や購入の申し込みを受けた宅建業者は、媒介契約の締結時に「インスペクション業者のあっせんの可否を示し、依頼主の意向に応じてあっせんすること」。重要事項説明時には「インスペクションを実施した場合には、その結果を重要事項として買主に対して説明すること」。売買契約締結時には「基礎、外壁等の現状を売主・買主が相互に確認し、その内容を売主・買主に書面で交付すること」が義務化されました。
 これらの新たな措置により、インスペクションを知らなかった消費者のサービス利用が促進され、インスペクションの結果を踏まえた購入の判断や価格交渉が可能になり、またインスペクション結果を活用した既存住宅売買瑕疵保険の加入が促進されるなどが期待されます。売主・買主の双方が現況を書面で確認することから、建物の瑕疵をめぐった物件引渡し後のトラブルが減少することも期待されます。
 今後はインスペクションの普及により、状況の把握された既存住宅の流通が活発になり、
魅力的な「住みたい」「買いたい」と思うような既存住宅が増加し、既存住宅が資産として次世代に承継されていく時代がやってくるのかもしれません。
 
 
参考文献
「住生活基本計画」 国土交通省住宅局住宅政策課
「知らなきゃ危ない!建物状況調査(インスペクション)と最近の留意すべき不動産取引」
平成30年度 公益社団法人東京都宅地建物取引業協会 城西ブロック研修会資料
「宅建業法改正の概要とインスペクション・既存住宅瑕疵保険の活用について」
平成29年度 公益社団法人東京都宅地建物取引業協会 城西ブロック研修会資料
 
 
東京練馬事務所 谷野文則

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