知的財産権って何?
知的財産権という言葉を耳にしたことがあると思いますが、では知的財産権っていったい何でしょう。
どのような種類のものがあるのでしょうか?何か役立つことがあるのでしょうか?
逆に知的財産権を取ったことにより問題となってしまうことがあるのでしょうか?
ここでは、知的財産権のうち、主に産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)について説明していきます。
1.知的財産権の種類
知的財産権は、人間の知的創作活動等について一定期間与えられる独占権です。
(1)創作意欲を促進させるために知的創造物についての権利等には、
①特許法によって保護される特許権、
②実用新案法によって保護される実用新案権、
③意匠法によって保護される意匠権、
④著作権法によって保護される著作権、
⑤半導体集積回路の回路配置法によって保護される回路配置権、
⑥種苗法によって保護される育成者権、
⑦不正競争防止法によって保護される営業秘密、
などがあります。
(2)信用の維持のために営業上の標識についての権利等には
①商標法によって保護される商標権、
②会社法・商法により保護される商号、
③不正競争防止法によって保護される商品表示・商品形態、
④地理的表示法などにより保護される地理的表示、
などがあります。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/seidogaiyo/chizai02.htmlから引用
さまざまな権利によって保護されることから、たとえば、1台の自動車であっても、次のようにさまざまな多くの権利によって保護されています。
・特許権:新しく考え付いた発明について与えられます。
・実用新案権:新しく考え付いた形状等のアイディアについて与えられます。
・意匠権:デザインについて与えられます。
・商標権:商品、サービスを区別するマークについて与えられます。
2.知的財産権って何の役に立つの?知的財産権のメリット
知的財産権を取ると何かいいことがあるのでしようか?取るとすぐに儲かるのでしょうか?
(1)特許権、実用新案権、意匠権の場合
特許権、実用新案権を取得することができると、特許権者、実用新案権者は、それぞれの権利範囲内において独占的に発明、実用新案を実施できます※1。したがって、他人が同じ発明、実用新案を無断で実施することを防ぐことができます。
たとえば、下記の図において柵で囲まれた範囲が権利範囲であるとし、その策で囲まれた土地は肥沃な土地で良好な作物ができるとします。その場合に、特許権者、実用新案権者のみがその柵の中で良好な作物を作ることができ、第三者である他人はその柵の中の土地を無断で使うことができません。第三者である他人は作物を作ることができない土地で特許権者、実用新案権者が作る作物を、指をくわえて見ているしかなく、作物が欲しければ特許権者、実用新案権者が作った作物を買うか、特許権者、実用新案権者に柵の中の土地の使用料を支払って土地を使わせてもらうことになります。
パイオニア的な発明であればあるほど、その柵の大きさは大きくなり、陽の良く当たる広大で肥沃な土地を手に入れることと同じとなり、良好な作物を独占してたくさん作ることができるようになります。このようにして作った作物を売ることで特許権者、実用新案権者は儲かるようになります。
その土地でしか作ることができない作物の場合には、特許権者、実用新案権者からしか買うことができないので、特許権者、実用新案権者のみが儲かるようになります。
では、特許権、実用新案権を取得すると、必ず儲かるのかというとそういうものでもありません。
柵を確保したところで作物を作らなければ作物は売れませんし、作物を作ったところで売れなければ儲かりません。作物を作ったら自動的に売れるというものでもありません。特許権、実用新案権を取得したら儲かるというものではなく、物を売る努力をしなければ儲かりません。
但し、特許権、実用新案権を取得しないと作物自体を作ることができなかったり、気が付いたら他人の土地の中で作物を作っていたりということが起こります※2。知らず知らずのうちにでも他人の土地で作物を作って売っていた場合には、ある日突然にその土地の所有者から警告書という名前のラブレターが届きます。そのラブレターには、「あなたは私の土地を無断で使って作物作って売っていたので、その儲けを私に頂戴ね。それから、作った作物や作物を作るための機械は捨ててね。」という心温まる文章が書いてあります。
また、特許権を取得できるほど高度な技術を持っていると認識されますので会社としては技術力をアピールできますし、ライセンス収入を得ることもできます。
さらに、特許権を取得することにより自分の会社のみが特許に係る物を製造等できるのであれば無用な価格競争に巻き込まれることがなく、対等な立場で取引相手と取引できます。
意匠権は物品等のデザインについての権利ですが、特許権、実用新案権と同様に、その物品等のデザインを独占的に利用できます。このため、第三者である他人が、同じ物品等に同じデザインをすることはできません。
(2)商標権の場合
商標権は商品、サービスなどに付与されるマーク、文字列ですので自分が使おうと思ったマークなどが他人に取られてしまうと、そのマークなどを使うことができなくなってしまいます。たとえば、新しい商品にマークを使用して販売しようとしている場合に、そのマークの商標権が他人に取られていると、そのマークを使用することができません。もしも、そのマークを使用したパンフレットがすでに刷り上がっている場合にはそのパンフレットを廃棄することになりかねませんし、そのマークを使用した商品がすでに出来上がっている場合にはその商品を廃棄することになりかねません。
またハウスマーク を他人に商標登録されてしまうとハウスマーク※3の変更などという恐ろしい事態になりかねません。
商標権を取得していれば、商品、サービスなどにマークなどを独占的に使用できるので、商品、サービスの品質に自信があれば商標によって他人の商品、サービスと差別化でき、自分の商品を選んで購入してもらったり、サービスを選んで受けてもらったりすることができます。
とくに商標権の場合は特許権、実用新案権、意匠権と異なり半永久的な権利ですのでブランド価値を半永久的に保護できます。
3.知的財産権のデメリットは無いの?
では、知的財産権を取得するデメリットはないのでしょうか。
(1)特許権、実用新案権、意匠権の場合
いずれも出願から一定期間経過後に内容が公開されてしまいますので、技術内容等が競合他社に知られてしまう恐れがあるというデメリットがあります。このため、何でもかんでも権利を取得すればいいというものではありません。ノウハウについては特許権等を取得せずに秘密にしておくべきです。また、自社の研究開発動向が他社に知られてしまうこととなります。
また、権利は一定期間に限られるので権利消滅後は他人が自由に特許に係る発明等を使用できてしまうこととなります。
(2)商標権の場合
商標権は、特許権、実用新案権、意匠権とことなり早いもの順に登録されてしまうので自社に先駆け他社が権利を取得してしまうと、自社がその商標権に係る登録商標を使用できないということになってしまいます。
(3)費用が掛かる
特許権、実用新案権、意匠権、商標権のいずれにおいても費用が掛かります。権利は各国ごとに取得しなければならないので、外国出願まで考えた場合には費用が嵩むこととなります。権利を取得するメリットとデメリットとを比較して権利取得を考えなければなりません。但し、補助金、減免制度を利用することにより費用を抑えることができる場合があります。
※1 実用新案権の場合、無審査ですので一定の制限があります。
※2 現実の畑などで作物を作る場合に他人の畑を無断で使用して作物を作るということはほとんどあり得ないでしょうが特許法、実用新案法の世界では起こりえます。
※3 営業標識として用いられるマークのことで、たとえば、トヨタ自動車のトヨタなど。
東京UIT国際特許業務法人(http://www.uit-patent.or.jp/)
弁理士 井上 正
経歴
平成5年11月 弁理士試験合格、同登録
平成17年3月 特定侵害訴訟代理業務付記
昭和62年4月~昭和63年12月 加藤牛久特許事務所勤務
平成元年1月~平成25年12月 牛久特許事務所勤務
平成26年1月~ 東京UIT国際特許業務法人パートナー
役職歴、その他
平成20年4月~平成21年3月 日本弁理士会著作権委員会委員長
平成21年4月~平成23年3月 日本弁理士会常議員
平成26年4月~平成28年3月 工業所有権審議会試験委員(弁理士試験委員)
平成29年6月~ 埼玉県産業振興公社登録支援専門家
平成30年4月~ 東京高等裁判所、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所所属専門委員(知的財産権訴訟)
東京UIT国際特許業務法人(http://www.uit-patent.or.jp/)
3名の異なる専門分野の弁理士によって設立された特許業務法人。
とりわけAIやITといった分野に強く、30年のキャリアの中で多数の案件に携わっている。
その他、意匠や商標にも対応しており、ビジネスにおける様々な知的財産権の問題や事前対策を相談できる事務所である。