少子化対策としての「N分N乗方式」を考える
少子化及び人口減少社会が到来しているなか、フランスで採用されている「N分N乗方式」が、少子化対策として話題になっています。比較的所得の高い専業主婦世帯に有利になる一方で、所得税をあまり払っていない共働きの中低所得世帯への恩恵は限られるとされています。
フランスなどで導入済の「N分N乗方式」の注目点は、育てるのは実子の必要はなく、他人の子供、親の無い子供も含めています。また、子供を育てた人の将来の年金が増えることにもなるのです。
元々、所得税の課税単位として、
〇個人を課税単位とする個人課税方式(我が国が採用)
〇夫婦を課税単位とする二分二乗方式(米国・ドイツが採用)
〇家族を課税単位にするN分N乗方式(フランスが採用)
に区分されます。
なお、「N」は人数をあらわす記号で、世帯の所得を世帯人数で割り(N分)、税額の計算後に世帯人数をかける(N乗)ことから、「N分N乗方式」と呼ばれ、世帯単位の課税方式になります。N分N乗方式を採用した場合、所得税を計算する際に、まず世帯の課税所得額(共働き世帯の場合は夫と妻の所得)を合計します。その後、世帯の人数で割った金額(N分)をベースに税額を計算し、最後に世帯の人数をかけて(N乗)納税額を算出します。
〈N分N乗方式の計算方法〉
総所得 ÷ N × 税率 = 1人あたりの総額
1人あたりの総額 × N = 納税額
例えば夫の年収が600万円、妻の年収が400万円で、子供が3人いる世帯の場合、「N分N乗方式」の場合、世帯年収1000万円を、子供を含む世帯人員をもとに4で割ります(フランスでは第一子、第二子の場合、各0.5、つまり二人で1.0人で計算する)。こうして得られた数がN(=4)です。Nは世帯の人数を表します。
このN=4で世帯年収の1,000万円を割ると一人当たりの収入は250万円です。
課税の基準をこの250万円をベースに考えます。年収500万円なら、住民税、所得税、社会保険負担などでかなり天引きされますが、年収250万円なら、多くの公的負担は軽減されます。世帯の納付額は、250万円の収入に課される額に世帯人数の4をかけて決めます。これがN乗です。
この方式では、子育てしたり、無収入の親の面倒を見ていたりすると世帯が納める公的負担が減る一方、世帯人数が少ない家庭は、通常の公的負担になります。また、共稼ぎ世帯にとって相対的に有利となり、女性の社会進出に寄与します。
このN分N乗方式の場合、節税効果を生むことから、世帯所得が多いほど、高齢の親の扶養や、子供をたくさん持つモチベーションになります。しかし、所得の低い層は、元々公的負担額が少なく、所得をNで割ってもさらなる公的負担減は望めず、短期的には子供をたくさん持つ動機にはなりません。ただ、長期的には子供が増え、将来の社会基盤になります。
また、導入へのハードルとして、日本でN分N乗方式を導入する場合、所得税の課税方式を「個人単位」から「世帯単位」へ抜本的改革が必要です。「課税単位の『世帯』の定義」「所得税の税率の設定」など、検討すべき課題は多数存在します。
ここ数年で日本では若年世代への税負担が増加しているといわれています。また、財務省の資料によると、日本では納税者の約6割に最低税率の5%が適用され、約8割強の納税者に税率10%以下が適用されています。
N分N乗方式を導入しても、もともと低い税率の適用を受けている方にとっては、短期的には減税効果の恩恵がなく、高額所得者ほど減税効果の恩恵を受けるということになり、所得の再分配機能が低下することになります。このような状態で、政治家が、短期的に選挙を考えた場合、決して有効な政策ではないとされてしまいます。
非常に難しい問題であると思いますが、財源確保だけではなく、将来の日本のために何が大切かという視点からの税制も望まれるところです。
渋谷事務所
田中 秀和