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役員退職慰労金の経費計上について

〈役員が分掌変更した場合の退職金〉

 退職所得は、所得税法30条に「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定されています。また、退職とは、最高裁昭和58年9月9日の判決で以下のように判示しています。
「ある金員が、右規定にいう『退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与』にあたるというためには、それが、
⑴ 退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること、
⑵ 従来継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、
⑶ 一時金として支払われること、の要件を備えることが必要であり、
また、右規定にいう『これらの性質を有する給与』にあたるというためには、それが、形式的には右の各要件のすべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、右『退職により一時に受ける給与』と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきである。」

次に「分掌変更」とは、常勤役員が非常勤役員になることや、取締役が監査役になるなど、会社での立場の変化がありながらも引き続き会社に在職することを言います。この場合、税法上において一定の要件を満たしていれば、分掌変更時に退職金が経費(損金)として認められます。分掌変更における退職金について法人税法基本通達9-2-31では以下のように規定されています。
法人税法基本通達9-2-31
「法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与は、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる」とされています。
⑴ 常勤役員が非常勤役員になったこと
⑵ 取締役が監査役になったこと
⑶ 分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと
 
 通達上はこのように規定されていますが、判断が難しいのは、上記通達の書いてある条件を満たしていても、退職金が経費(損金)として認められない場合があることです。判決(京都地裁平成18年2月10日)では、上記通達の要件を満たしてはいたものの、実質的には退職していなかったものとして、退職金が損金として認められないと判示されました。「実質的に」というのが非常にやっかいです。判例では以下の点に着目して「実質」の判断をしています。
・会社の株式の保有の有無
・出勤の頻度と勤務時間
・会社の借入金の保証人になっているか否か
・主要な取引先に影響を及ぼしていないか
・人事権を有しているか等
これらの基準によって、その退職したとされる人物が会社に対して影響力を継続して保持し続けているかどうかを判断し、その上でその分掌変更により支給された金員が退職金に該当するかどうかを結論づけます。
 役員退職慰労金には、注意が必要です。仮に税務調査で退職金の損金性が認められなかった場合、その退職金は永久に法人の損金として計上できませんし、個人の所得計算上も給与所得となり税金を多く納めなくてはなりません。また他にも税法上のペナルティ(過少申告加算税等)が課されます。それだけに役員に退職金を支給するときは神経を使わなければなりません。特に分掌変更における退職金の支給はリスクがあるので、注意が必要です。

渋谷事務所 小池良輔

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