役員退職金の現物支給
役員の退職金は常識的な範囲であれば、損金として認められます。「常識的」とはどれくらいでしょうか。一般的には功績倍率法が使われます。
<功績倍率法>
役員退職金=直近の月額報酬×役員勤続年数×功績倍率
功績倍率法に基づいて支給される退職給与は役員給与の損金不算入の規定の適用はない、つまり業績連動給与に該当するものを除き、不相当に高額な部分の金額に該当しない限り、損金に算入されます。
功績倍率を何倍にするかにも依りますが、役員(特に創始者など)の退職金を支払う場合は高額となることもあるため、退職金を現金ではなく、一部(または全額)会社の所有する資産で支払うことがあります。例えば、社長が社宅として使用していた土地建物を退職金とする場合などです。
このような場合、退職金に対する課税はどの様にされるのでしょうか。
一般的に退職金は源泉所得税と住民税を差し引かれて支給されます。その計算のもととなる退職金(退職所得控除を引く前)の金額は、現金で支給される場合はそのまま額面通りの金額ですが、現物支給の場合は評価額によって計算されます。
簿価1000万円、時価1200万円の土地を退職金として支給する場合は、退職金1200万円と評価した差額の200万円(譲渡益)が計上されることになり、逆に時価800万円の場合は退職金800万円と評価差額200万円(譲渡損)が計上されます。
法人で掛けていた保険を被保険者である退職者個人に名義変更することもあります。この場合の評価は解約返戻金相当額です。大きく含み益がある場合もありますので注意が必要です。
なお、役員の退職金は株主総会の決議によって決まりますが、その際現物支給の資産とその金額も確認して決めておきましょう。
現物支給の利点の一つは、現預金が減らないことです。特に借入をする場合は流動資産の比率が高い方が有利ですが、役員退職金は高額になることもあるので、一気に現預金が減ってしまうと流動比率も下がってしまいます。それを固定資産で支払えば流動比率が大きく改善されます。
蛇足ですが、退職金が決算書上の一般経費に計上され経常利益が大きくマイナスとなってしまう場合は、特別損失に計上した方が、金融機関の心象も良くなるかもしれません。
ところで、消費税の扱いはどの様になるでしょうか。
現金で支払われる退職金は当然消費税の対象外です。退職金として支払われる資産、例えば建物や車両も不課税、土地も非課税ではなく不課税です。
ただし、株主総会で退職金を現金で支払うことを決めた後で、資金不足の為他の資産で支払うこととした場合は、当初の弁済手段に代えて他の給付をもって弁済する代物弁済とみなされ、消費税の課税対象となってしまいます。
これにより課税売上げが増えるだけでなく、その中に土地が含まれている場合などは課税売上割合にも大きく影響を与えてしまいます。
退職金は急に発生するものではありませんが、準備にも時間を要します。どの様な方法が法人・個人にとって有利なのか、支払い方法も含め前もって考えておくと慌てずに済みます。
参考条文等
・法人税基本通達9-2-27の2
・消費税法第2条1-8
・消費税基本通達 5-1-4
横浜青葉事務所
山崎 智津子