消費税の免税点制度の今後
2019年10月に行われた10%への増税や、2023年10月に予定されるインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、様々に注目を浴びる消費税ですが、今回は消費税の免税点(一定金額以下は課税の対象とならない場合の、その一定金額の事)について考えてみたいと思います。
課税の対象となる金額に下限を設ける免税点制度はいくつかの税目で採用されておりますが、消費税においては、「小規模な事業者の事務負担や税務執行コストへの配慮から設けられている特例措置」とされており、一般的には「小規模事業者の特例」と呼ばれています。
現状では、基準期間(一般に対象期の2事業年度前)の課税売上高が1000万円未満である場合、消費税が免除されることとなっております。
しかしながら、免税点が3000万円から1000万円に引下げられた平成15年改正においては、税制調査会からは法人すべてを免税事業者から除外すべきという答申も提出されておりました。実際には法人すべてが課税事業者となることはなかったわけですが、その答申からもかなりの時間が経過し、今後も現状のままであるとは限りません。
特に、事務負担という面で言えば、導入しやすく廉価な会計ソフトの普及に加え、そもそも法人税・所得税の申告において帳簿作成が必要となっていることを鑑みれば、現状では特段問題となる負担の程度ではないのではないかという意見もあります。法人税・所得税の申告があることから、法人すべて、あるいは青色申告者すべてを免税事業者から除外すべきという意見も同様にあります。
また、諸外国の例を見れば、OECD加盟国の中で、1000万円以上の免税点としているのはイギリス、スイス、フランスに限られ、これら三国はいずれも過去の実績のみならず、その期における実績見込みを含めて判断することとなっております。その他の国は、我が国と比べて2分の1、あるいは3分の1程度の免税点を設定しているのが現状です。
外国の例に倣えばいいというものではありませんし、各国はそれぞれ自国なりの根拠をもって基準を設けております。ただし、我が国における1000万円という過去の売上を判断材料とすることに、それらの国々と比べても強い根拠があるかという問いにはたやすくうなずくことは出来ません。
さらに言えば、免税点の低い国においては、「課税事業者」であることに一種のステータスが生じており、そうした傾向は、おそらく我が国政府も目指しているものと考えられます。
令和元年現在、近々に免税点が引き下げられるという話は聞こえてくるものではありません。しかしながら、インボイス制度導入前には、免税事業者という特例をどこまで許容するかという議論が生じてくる可能性はあります。
はたしてそうした議論が行われ、国民意識がどのように形成され、結果としてどのような制度となっていくのか。消費税の制度的変遷について、注目していくべきでしょう。
渋谷事務所 津田純一
出典:税務大学校論叢88号「消費税の事業者免税点制度の在り方についての一考察」
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/88/01/index.htm