勘に頼らない「達成すべき」目標売上高の作成方法
財務諸表は、「過去の営業実績」や「これまでの事業活動を通じて蓄積された資産・負債の状態」を表しています。
前者が「損益計算書」、後者が「貸借対照表」であり、両者は過去を表しているにすぎません。
もちろん、これまでの事業活動の内容・結果を、財務諸表を通じて分析・理解することはとても重要です。
多くの中小企業が来期の売上予算を考える際、「前年比〇%アップ」といったように予算を作成しています。「前期の売上がこれくらいだったから、5%アップくらいならいけるだろう」と、感覚で決めていないでしょうか。その背景にあるのは、過去の実績をまとめた財務諸表であり、財務諸表だけを拠り所として予算を作成しているのが実態ではないでしょうか。
会社経営で重要なのは、売上高ではなく利益額です。「会社の存続に必要な利益はいくらなのか?」から出発し、「そのために必要な粗利益額はいくらか?」「その粗利益額を獲得するために必要な売上高はいくらか?」といったプロセスで売上予算を作成すべきです。
では、具体的にどのようなプロセスで行うかを以下に記します。
■プロセス1~利益を決定する
最初にいくら儲けたいのかを決定します。まず、1年間で増やすべきキャッシュを把握することから始まります。この際、例えば「5年後に店舗改装を実現するために1,000万円が必要」ならば、1年間で増やすべきキャッシュは200万円となります。1年間で増やすべきキャッシュが分かったら、それに1年間の借入金返済額を足した額が、1年間で儲けるべき額(純利益+減価償却費)です。
さて、純利益は納税後の額です。税額は経常利益の約3分の1ですので、純利益(上記の「1年間で儲けるべき額」から減価償却費を差し引いたもの)を1.5倍した額が必要な経常利益の額となります。
■プロセス2~固定費を決定する
固定費には、次の5種類があります。
・人件費
・製造経費、販売費及び一般管理費
・金利、営業外費用
・戦略費
・減価償却費
まず、人件費です。来期の人件費の年間総額を決定します。これには役員・従業員の給与の他に、社会保険料である法定福利費や福利厚生費など、人にかかる全ての経費を含めます。
次に、人件費以外の固定費を決めます。広告宣伝費や販売促進費、研究開発費、教育訓練費などが含まれます。
■プロセス3~目標粗利益額を決定する
上記のプロセス①及び②で決定した、利益と固定費の合計額が目標粗利益額となります。
以上で利益計画の作成は完了です。この目標利益を実際にどのように実現していくかが、経営者にとって最も重要な仕事の一つと言えるでしょう。ここから、目標売上高に換算する作業となります。
■プロセス4~売上高に換算する
ここで必要なのが、「粗利益率」です。前期実績などの数値を参考として、当期の粗利益率を決めます。粗利益額から売上高に換算するには次の公式を用います。
目標売上高 = 目標粗利益額 ÷ 粗利益率
上記の数値は年額ですので、これを12で割ると1カ月当たりの平均目標売上高を算出することもできます。季節変動性を考慮する場合は、適宜季節指数を考慮して各月の目標売上高を決定します。
こうして算出された目標売上高は、得意先別や商品別の販売計画に落とし込み、月次ごとの目標を設定するなどして管理・運用していくことになります。
西 順一郎『利益が見える戦略MQ会計』、かんき出版、2009
渋谷事務所 丸山 浩史