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オープンイノベーション税制とは

【1.オープンイノーベーション促進税制制定の背景】

<オープンイノベーションとは>
企業単独ではなく、社外の既存およびベンチャー企業の間で、あるいは大学等の研究機関との間で、技術やアイディアを共有しながら、協力してイノベーション=技術革新を生み出すことを言います。
アメリカにおいてはグーグルやアップルといった巨大な企業が先進技術の開発や革新的な発想を持つベンチャー企業を買収して内部に取り込み、新たな収益源に育て、事業を拡大しています。そして、ベンチャー企業においても、こうした巨大な企業からの成長が期待されることとなります。

しかしながら、日本においては大学や研究機関との共同研究開発などはある程度進んでいるものの、大企業とベンチャー企業との間では広がっていないといわれています。
また、米国や中国におけるITプラットフォーム企業等の成長に比べて、日本企業の低下気味の国際競争力を強化して、デジタル革命を軸とする「第四次産業革命」に乗り遅れないようにすることが背景にあります。更に、アベノミクスとともに景気が回復するのに伴って企業の業績も改善され、内部留保も増加していきました。2018年度には、内部留保の金額が463兆円余りになり、このうち現金預金だけで240兆円にも達しています。この巨大資金をこのまま眠らせておくのは勿体なく、少しでも有効利用させオープンイノベーションを促進させるために、今回の税制改正が行われることとなりました。

【2.制度の概要】

対象法人が新事業開拓事業者(以下、「スタートアップ企業」といいます。)とのオープンイノベーションに向けて、そのスタートアップ企業の特定株式を指定期間内※1に取得し、取得事業年度終了の日まで引き続き保有している場合において、その特定株式の取得価額(1件当たりの出資上限100億円)の25%相当額以下の金額を特別勘定経理した場合には、その事業年度の所得基準額※2を上限に、その経理した金額に相当する金額を損金の額に算入できる制度を言います。

※1 指定期間とは、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの期間(※令和2年9月時点)を言います。
※2 所得基準額とは、本制度の規定を適用せずに、かつ、特定株式の取得日を含む事業年度において支出した寄付金の額の全額を損金の額に算入して計算した場合のその事業年度の所得の金額から、翌事業年度以降に繰越される欠損金がある場合のその欠損金額を差引いた金額を言います。

【3.用語の意義】

(1)対象法人
本税制の対象法人は、青色申告書を提出する法人で、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指す株式会社等及びこれら対象法人が主体となるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を経由して出資する場合も対象となります。コーポレートベンチャーキャピタルとは、投資を本業としない事業会社が自社の事業分野とシナジーを生む可能性のあるベンチャー企業に対して投資を行うことや、そのための組織を言います。
 
(2)スタートアップ企業
スタートアップ企業は、次の要件を満たす法人となります。また、外国法人においても、次の要件を満たす法人に類するものとして認められる場合には、対象となります。
① 株式会社 
② 設立10年未満 
③ 未上場・未登録 
④ 既に事業を開始している※1  
⑤ 一つの法人グループが株式の過半数を有していない※2 等

※1 既に事業を開始していることとは、対象法人の出資がスタートアップ企業の設立出資に該当せず、決算書等でスタートアップ企業が既に事業を行っていることが確認できれば要件を満たしていることとなります。
※2 出資対象となるスタートアップ企業は、その発行済株式の総数に占める一つの法人グループによる出資割合が1/2以下となっている必要があります。

(3)特定株式
本制度の対象となる特定株式とは、対象法人がオープンイノベーションに向けて、5年以上の株式の継続保有を見込んで、一定額以上の現金による払込みにより取得するスタートアップ企業の新規発行株式をいい、具体的には次の通りです。
① 資本金の増加を伴う現金による出資であること 
② 1件当たり1億円以上の出資であること※1 
③ オープンイノベーションに向けた取組の一環で行われる出資であること 
④ 取得株式の5年以上の保有を予定していること
⑤ 純出資等を目的とする出資ではないこと

※1 対象法人が大法人の場合:1億円以上/件
   対象法人が中小企業の場合:1,000万円以上/件
   スタートアップ企業が外国法人の場合:一律5億円以上/件 が対象となります。

(4)特別勘定経理及び損金算入限度額
本制度の損金算入限度額は、特定株式の取得価額(1件当たりの出資上限100億円)の25%相当額以下の金額をその特定株式の取得の日を含む事業年度の確定した決算において各スタートアップ企業別に特別勘定も設ける方法により経理した場合における、その経理した金額に相当する金額です。
ただし、その経理した金額に相当する金額が所得基準額(1事業年度当たりの上限125億円)を超える場合には、その所得金額が限度となります。

【4.注意点(益金参入)】

対象法人が有する特別勘定の金額は、次の取崩し事由に該当することとなった場合には、その取崩し事由に該当することとなった日を含む事業年度において、その事由に対応した金額を取崩して、益金の額に算入します。
このほかに、5年の間に対象法人がスタートアップ企業とのオープンイノベーションを継続していると認められない等の場合には、特別勘定の金額を取崩さなければならず、その取崩した金額は、その取崩した事業年度の益金の額に算入します。
① 対象法人の青色申告書の提出の承認が取り消された、若しくは青色申告取止めの届出を行った。
② 対象法人又はスタートアップ企業が解散した。
③ 対象である取得株式を売却した。
④ スタートアップ企業から配当を受けた。
⑤ 対象である取得株式の帳簿価額を減額した。  等
なお、その取得日から5年を経過した日を含む事業年度に共同化継続証明書※1の交付を受けた場合には、その後の事業年度における特別勘定の金額を取崩した場合でも、その取崩した金額が益金に算入されることはありません。

※1 共同化継続証明書とは、共同化調査省令第4条第2項の規定による経済産業大臣の交付する証明書を言います。

【5.最後に】

実際に税制改正だけの後押しだけではオープンイノベーションが進むのは難しそうです。なぜなら、企業の経営者もリーマンショックやコロナ禍を通じて手許に現金を残す重要性が染みついてしまったと考えられるからです。しかしながら、経営者が意識を変革させオープンイノベーションを進めることが、これからの日本の経済を大きく発展させるきっかけになるのではないかと思います。

<出典>
経済産業省HP「オープンイノベーション促進税制について」https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/open_innovation/kankeihorei/200706_oizeisei_gaiyoshiryo.pdf
国税庁HPタックスアンサー「No.5443 特別試験研究費の額に係わる税額控除制度」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5443.htm
NHK 自論公論「税制改正と投資~背景と課題」http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/417301.html 

東京練馬事務所   鎌田 恒平

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