コロナ禍による棚卸資産の廃棄及び評価損の計上
新型コロナウイルス感染症の拡大、いわゆるコロナ禍はなかなか終息には向かわず、その影響が世界的規模に及んでいます。経営環境の悪化、景気後退が懸念される中にあって、会計・税務上の処理や取扱いに様々な論点が浮上しています。
今回は、製造業を営む法人などで大量の在庫が生じた場合に、在庫商品をさばくには思い切った値引き販売などが必要と思われるため、期末において評価損を計上するとともに、一部の在庫商品については廃棄処分を検討する場合の、税務上の損金算入の条件などについて検討をしたいと思います。
1. 棚卸資産に係る廃棄損及び評価損に関する法令等の規定
(1) 廃棄損の計上
法人税法22条3項は、各事業年度に発生した損失については損金に算入するものと規定しており、販売見込みのない在庫商品を実際に廃棄した場合にはその廃棄を行った事業年度における損金算入に問題はないことになります。
(2) 評価損の計上基準
法人税法33条1項では、資産の評価損については損金の額に算入しないとの原則を示すとともに同条2項以下において①法人の有する資産につき物損等の事実又は法的整理の事実が生じた場合、②法人の有する資産につき会社更生法等の規定に従って行う評価換えをして資産の帳簿価額を減額した場合、③その法人が有する資産につき民事再生法の規定に基づいて適正な評価を行っている場合の3ケースに限って例外的に評価損の計上を認めるものとしています。
この規定を受けて法人税法施行令68条では、上記①の「物損等の事実」について棚卸資産の場合については次の事実が該当する旨を規定しています。
① その資産が災害により著しく損傷したこと
② その資産が著しく陳腐化したこと
③ ①又は②に準ずる特別の事実
この規定により棚卸資産について評価損の損金計上が認められる事由が相当程度示されたとも思われますが、「陳腐化」というあまりなじみのない言葉が用いられていること及び③の「準ずる特別な事実」とはどのような事実が該当するかなどの点について疑義が生じるところから、この点に関し法人税法基本通達9-1-4から9-1-6において次のような解釈基準が示されています。
<棚卸資産の著しい陳腐化の例示・9-1-4>
「陳腐化」とは棚卸資産そのものについては、物理的損傷等がないにもかかわらず、経済的に価値が減少しその価値が今後回復しないと認められる状態にあることを言い、例えば、商品について次のような事実が生じたことが該当する。
① いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価格では販売できないことが過去の事績等に照らして明らかであること。
② その商品と用途の面ではおおむね同様ではあるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、その商品について今後通常の方法により販売することができなくなったこと。
<棚卸資産について評価損の計上ができる「準ずる特別の事実」の例示・9-1-5>
棚卸資産について評価損の計上ができる「準ずる特別の事実」には例えば、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことが含まれる。
<棚卸資産について評価損の計上ができない場合・9-1-6>
棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは棚卸資産について評価損の計上ができる事実には該当しない。
2. 検討
(1) 廃棄損について
上記1でも述べましたが、実際に廃棄が行われた場合には、その廃棄が行われた事業年度において税務上も損金算入することに問題はないことになります。
なお、注意点は「実際に廃棄」することが必要という点です。過去の税務調査では期末棚卸作業の際に廃棄予定商品については商品倉庫の在庫棚から移して倉庫の隅に保管しておいたものの廃棄業者への引渡しが1か月後となっていたケースについて、「期末までに廃棄されていない」として問題とされた例もあります。したがって、商品廃棄作業については期末までに廃棄を了しておく必要があります。
(2) 評価損について
① 評価損の計上について
「在庫商品をさばくには思い切った値引き販売などが必要」との前提に立つと、法人税法基本通達9-1-4が「陳腐化商品」の例示として掲げている「いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価格では販売できないことが過去の実績等に照らして明らかであること」といった事実と同様の状況にあるものと思われますので、基本的には評価損の計上が可能なケースに該当すると思われます。
② 評価損計上のための留意事項
イ 損金経理
棚卸資産に係る評価損の損金計上が認められるには「当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額」することが求められています。したがって、会計上の評価損を計上しないで、申告調整により減額する方法によることは認められないことになります。
ロ 評価減をする場合の時価の算定
評価減の計上は期末における時価と帳簿価額との差額ということになります。この場合の時価は「当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額」とされています(法基通9-1-3)。これはいわゆるスクラップなどの処分見込み価額とは異なりますので、販売可能価額を過去の実績等に基づいて可能な範囲で的確に算定する必要があります。
渋谷事務所
丸山 浩史