実体験から考える戸籍の取得
相続に関わるという事は、私のように仕事で関わっている人を除いて中々ないものです。ましてや最も身近な父母に係るものではなく、叔母や離れて住んでいた親族の場合等なおさらです。
しかし、相続は誰にでも必ず起こるものですから、当然相続人にもなりますし、又被相続人にもなるものです。
ここでは私が経験した実例に因りお伝えしたいと思います。
⑴相続発生
昨年コロナ下の中で、私の叔母が亡くなりました。苦労の多い人生の中、しっかりと生きた尊敬すべき叔母でした。その半年前に連れ合いも亡くなっており、正に後を追う様に亡くなったのです。約20年前にはお嬢様も病で亡くなっていました。
ご存知の方も多いと思いますが、この場合、原則、叔母の財産及び債務を無条件で引き継ぐのが相続で、相続人及び相続分というのが民法で定められています。(別途、放棄・限定承認等があります。)
叔母の場合相続人は第三順位のみとなります。これを証明するために必要になるのが相続人の確定をするための資料です。これが戸籍となります。過去の戸籍(現在は電子化されて全部事項証明書)から用意していく事になります。
なぜ、現在の戸籍(全部事項証明書)では足りないのか、これは法律により改正されているため、今現在の戸籍には以前の情報が記載されていないため、過去の戸籍が必要になるためです。
戸籍の制度は古くは大化の改新に始まるとされ、その後も江戸時代には人別帳や宗門
帳がその代用とされていた時代もあり、本格的な戸籍法が制定されたのが1872年(
明治5年)であり、一般的には壬申戸籍といわれ、今現在閲覧は不可能となっています。(この戸籍は江戸時代からの身分が記載されており、公的にも取得は不可能となって
います。)その後、戸籍の改正は1886年、1898年、1948年(昭和23年)、と行われており、今現在は、1994年(平成6年)の改正により戸籍事務の電子化で、従来の縦書きから横書きの様式となり、名称は「戸籍全部事項証明書」と呼ばれています。そのため、改正がある毎に必要な情報のみがその都度新しい戸籍に引き継がれる為です。
又、改正された後の従来の戸籍は除籍謄本、除籍抄本と呼ばれその内容は加筆訂正されません。この場合改正される前の戸籍を一般的には「改正原戸籍等」と呼んでいます。
尚、一般的に謄本とはその戸籍に記載されている全員が記載されたもので、その一人又は全員が記載されないものを抄本と呼んでいます。
叔母の場合、叔母の直系尊属(祖父母、総祖父母等)に遡り、戸籍を収取して行く必要がありました。
⑵戸籍の不足
取り敢えず準備できたので作業に取り掛かると、戸籍の不足が判明しました。昭和23年改正での改正が昭和35年に行われていたのですが、その年叔母が独立し2か月後結婚したため、その期間の戸籍が不足していたのです。
又、その他にも不足していた戸籍もありました。皆様もお聞きになった事もおありでしょうが、以前は家督制度というものがありました。そのため人の死亡による引継ぎだけでなく隠居による引継ぎもあり、又家制度も現在よりも重く考えられていたので、分家、廃家、廃絶家再興等、時代劇に出てくる様な事が実際もあり、またその内容も手書きで欄外に書かれていたりしたので、これらの戸籍についても各金融機関の対応に差があり別途要求される事もありました。
第三順位にあたる者もいたのですが以前に亡くなっていた者もあり、結果21通の戸籍関係が必要となり、窓口に足を運んだりしても1月程かかりました。
又金融機関によっては、抄本ではなく謄本とあるものもあり事前準備が必要でした。
⑶戸籍を取り終えて
実務的には、費用が掛かったとしても司法書士等の方に依頼する方が多いとは思いますが、実際にその場に遭遇してみて色々と判る事があり、時間や労力を考えても非常に有意義なものとなりました。
・祖父の母親がわからない
戸籍を集めてみて判った事で衝撃的だったのは、実際の祖父母が判らないという事です。やはり家督制度のなかでは、分家する前にはかなりの制約があったようです。
・祖父母の追跡
いくら戸籍に記載されていないとはいえ、やはり知りたいと思うし、又必要とも思い取得を試みると、今度は時効の壁にぶつかりました。平成22年の改正で保存期間が100年となりましたが、以前は80年若しくは50年となっていたためです。不足分はその他で代用できましたが、心情的には複雑なものが残りました。
・その他
法定相続情報一覧図の作成と有効期限内の再取得、死亡診断書の取得等様々な事例に遭遇し、その都度考える事感じる事も多々ありました。
⑷感想
前にも書かせて頂きましたが、やはり自分で取得作業を行った事は意義深いものとなりました。いくら親族とは言え、離れて暮らしていた事もあり、叔母の気持ちや考え等を慮ってこれらの作業を行う事で何と言っても自分の知らなかった事も随分とあり、感謝の気持ち等非常に大きなものを得る事となりました。
これらのことから、皆様にはご自身を知るうえで戸籍の取得等は可能な限りご自身で集められる事をお勧めします。
又時効期間が伸びたとはいえ、取得には時間もかかり、離れてお一人でお住みになる方も増えている事も考慮しますと、お早めに除籍謄本等を集めて一度親族皆様でお話しになる機会を作る事も必要な事と考えます。
渋谷事務所
佐々木 輝久