クリニック開業のヒント3
渋谷に形成外科を開業して8年になる医師が、開業についてのヒントを教えて下さいました。
開業を考えている医師の方のご参考になると思います。
お話しをして下さった先生のプロフィール
南平台緒方クリニック院長慶應義塾大学医学部卒後、25年以上にわたり臨床経験と最新医療の研鑽を重ね、慶應義塾大学医学部形成外科准教授を経て、平成24年5月南平台 緒方クリニックを開設。専門は「形成外科」、「美容外科」、「レーザー医学」、「顎顔面外科」、「皮膚腫瘍外科」などの専門医資格を持ち、安全かつ最適な医療を提供している。
<開業を目指す若い形成外科医に伝えたいこと>
形成外科を標榜する診療所は現在 2,000 以上になり 形成外科という診療科の認知度は確実に向上しています。
しかしながら形成外科医に何ができるかはそれほど知られていません。開業の際は何か1つ特化した領域をPR できるとよいようです。眼瞼、レーザー、顔面神経麻痺など、部位、手法、疾患、何でもいいので勤務医時代に得意分野を意識しておくといいと思います。
一方、開業医はいろいろな疾患に遭遇します。首の粉瘤で来院するも伝染性単核症だったことも複数回あります。形成外科以外の知識や経験がありがたく、形成外科以外の疾患についても努めて経験しておくと良いと思います。
医学は遺伝子レベルで研究されていますが 私たちは切開排膿止血閉創といった古くからの方法を続けています。 こうした治療を開発した先輩開業医の生き方を知ることも有用だと思います。 1500年代に頻面に縫合糸痕を残さない工夫をし ステリストリップテープも用いたアンブロワーズ・バレ『床屋医者バレ』(ジャンヌ・カルボニエ著、福武書店)、1700年代に全身の解剖、リンパ管造影(染色)、AEDも試み、やがて開業し盛業のうちに終えたジョン・ハンターの生涯を描いた『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(ウェンディ・ムーア著、河出書房新社)も快作です。開業形成外科医皆で共有したい事柄が満載です。 もう1冊お薦めの書として『社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶著 筑摩書房)を挙げます。 開業後の不条理や矛盾を受け入れることができるようになります。
私は、決心して数力月で開業せざるを得ない事情でしたが30歳代 40歳代のころノートに書き留めておいたメモが役に立ちました。こんなことをやりたい, こんなことができるのでは、こんな機器が欲しい、といった他愛もない妄想メモですが開業を目指している方は開業したらどのようにやりたいかときどき妄想してノ ートに記録しておくとよいと思います。
<まとめ>
本当のところ若手医師よりもむしろ私と同世代の50歳代の医師に開業を勧めたいです。病院で多くの知識と経験を経て、豊富な人脈を培った医師の方が、患者にとって良い医師になると思うからです。若手医師には”Be a doctor”まずは良い医師になろう!とアドバイスします。「正しい知識と健全な常識」をもつ医師になり、それぞれの立場と能力で活躍しつつ、これはと思う物件に出会ったときに即座に判断できるよう準備しておくとよいと思います。
出典:「形成外科 63巻2号 2020年2月」克誠堂出版
【緒方先生のクリニック 『南平台緒方クリニック』】