賃金未払いで起こる遅延賠償に注意!遅延損害金や遅延利息などをご紹介
従業員の労働に対して、賃金の未払いが発生することは言語道断です。
しかし今後の厳しい社会情勢による経営不振から、どうしても賃金を払えない状況に追い込まれることも予想されます。
企業側の厳しい状況を従業員が把握していたとしても、賃金を払えないことと、払わなくてもいいことは全く別の話です。いかなる状況でも企業や使用者の賃金の未払いは許されません。
今回は、賃金未払いの対象となる賃金やその遅延賠償、また遅延損害金の利率や計算方法などについてご紹介します。
未払い賃金の対象となる賃金とは
賃金の未払いは、全てが対象となるわけではありません。対象となる未払い賃金は下記の通りです。
・定期賃金
・残業代や割増賃金
・退職金
・賞与、ボーナス
・休業手当や休業補償
・年次有給休暇
・最低賃金との差額
みなし残業代など、十分な手当が給与に含まれていると判断される管理職の残業代や、外回り営業や在宅勤務などで、正確な労働時間を把握しにくい残業代については、未払い賃金の対象として評価しにくい傾向にあります。
未払い賃金で生じる損害金とは?
従業員に対して賃金の未払いを行った場合、遅延損害金が発生します。
遅延損害金とは、債務不履行に基づく損害賠償金のことをいいます。退職金以外の未払い賃金は、本来支払うべき日の翌日から、年利3%が上乗せされます。利息の仕組みとよく似ていることから、遅延損害金は「遅延利息」ともいわれます。
従業員に対する賃金未払いにおいては、就業規則などで決められた給与日に賃金を支払わないことが債務不履行にあたります。債務不履行があった場合、損害賠償の請求を起こすことができます。賃金の未払いでは遅延利息または遅延損害金を上乗せして損害賠償請求することで債務を履行したとすることができ、これを「填補賠償」といいます。
遅延損害金の利息は、労使間により決めることもできます。これを「約定利率」といい、就業規則や契約書に記載することで遅延損害金の利率と決めることができます。
労使間で利率を決めていない場合は、法定利率が採用されます。法定利率は2020年4月の民法改正により、年6%から変動制に変更されました。利率の変動制では3年を1期として、1期ごとに法定利率が見直されます。2020年4月の法改正時は年3%とされています。
なお、給与を支払うべき日に退職金を除く賃金が支払われないまま退職した場合は、退職日の翌日から支払いをする日までの日数に応じて年利14.6%を超えない範囲で、遅延利息として支払わなければいけません。遅延損害金より利率を高くすることで、退職者に対し支払期日を早めることを促します。
遅延損害金(遅延利息)の計算方法
遅延損害金または遅延利息の計算方法は下記の通りです。
遅延損害金=未払い賃金×遅延損害金の利率÷365×遅延日数
例えば、12月25日に支払うべき残業代2万円が未払いのままであり、2月1日に支払いを請求する場合であれば、遅延損害金は以下のようになります。(年利3%の場合)
2万円×3%÷365日×38日=62円
仮に上記のケースで未払いのまま2月1日に退職し、3月1日に請求する場合、利率が14.6%となり、遅延損害金は232円になり、2月1日までの遅延損害金である62円と合算した294円が請求されます。
遅延損害金の額面は少額であっても、長期間未払いを続けることで請求額が増加していきます。賃金の未払いを行った企業は、早めに従業員に支払うことが重要です。
未払い賃金を請求できる期間
2020年4月の民法改正により、従業員が賃金の未払いを企業に請求できる期間が、過去2年分から3年分へと延長されました。なお、退職金の請求期間はこれまで通り過去5年間です。
未払い賃金を請求できる期限が延長されたということは、遅延日数が長くなるにつれ遅延損害金の額が大きくなることを意味します。対応が遅れると企業は大きなダメージを受けることになるため注意が必要です。
まとめ
賃金の未払いが発生したとしても、従業員に遅延損害金を支払うという損失だけで終わることはありません。
定期賃金の支払いを怠った場合、労働基準法第120条、最低賃金法第40条により30万円または50万円以下の罰則があります。さらに従業員が労働基準監督署への申告を行うと、勧告や改善指導を受けるほか、悪質で重大な未払いに関しては刑事事件になり、社名や会社の住所が広く知られてしまいます。
企業にとっては経済的損失だけではなく、お金では解決できない信用と信頼を同時に失うことになり、そのダメージは計り知れません。また従業員にとっても賃金や安定した生活を失うので、受けるダメージは企業も従業員も同じです。
2020年4月に民法改正が行われ、遅延利率や請求期限の延長が行われたことを機に、企業の労働時間の管理体制や給与計算などを見直し、労務リスクの軽減につなげましょう。
(画像は写真ACより)