経営者が知っておきたい、残業代未払いが呼ぶ大きなリスク
100万件を超える労働相談件数
労働問題への関心の高まりを受け、近年、働き方改革を進めている企業が増えていますが、従業員と企業間のトラブルは後を絶ちません。
令和元年6月26日に厚生労働省が発表した「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は111万7,983件で、うち従業員と事業主間のトラブルに関する相談件数は26万6,535件(労働基準法等の違反に係るものを除く)にのぼります。
従業員と事業主間で生じるトラブルで、法律違反となる問題の1つが、残業代未払いです。厚生労働省は、残業代未払いの解消に向けて力を入れており、平成30年度(平成30年4月から平成31年3月まで)の期間に是正指導を受けた企業数は1,768企業で、支払われた割増賃金の合計額は124億4,883万円となっています(参考:監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成30年度))。
しかし、残業代未払いに関するリスクは、不払だった割増賃金の支払いだけにとどまりません。残業代未払い問題は、会社にどのようなリスクを及ぼすのでしょうか。
残業代の計算方法
労働基準法第37条では、時間外労働、休日労働、深夜労働を行わせた場合は、割増賃金を支払わなければいけないとしています。
割増賃金率は時間外労働が25%以上、休日労働が35%以上、深夜労働が25%以上となっています。ただし、時間外労働が1ヶ月60時間を超える場合は、超えた分の時間外労働について、原則50%以上の割増賃金率が適用されます。
経営を圧迫する可能性がある
ここからは、残業未払いが会社に与えるリスクについて整理していきます。
労働基準監督署から賃金不払残業について是正指導を受けた場合、会社は従業員に対して未払いだった割増賃金を支払わなければいけないことは先述した通りです。労働基準法第115条では、従業員に直近2年分の残業代を請求する権利を認めているため、割増賃金が高額になるケースがあります。
1人の従業員に割増賃金を支払った場合、他の従業員からも支払いを請求されることもあるでしょう。また、退職した従業員から未払い残業代を請求された場合は、遅延利息(年14.6%)も支払わなければいけないので注意が必要です(参考:賃金の支払の確保等に関する法律第6条)。
「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成30年度)」によると、平成30年度に1,000万円以上の割増賃金を支払った企業は228にものぼります。割増賃金の支払いによって経営が圧迫されることがないよう、毎月適切に支払っていくことが推奨されます。
懲役刑や罰金刑が科せられる
残業代未払いは労働基準法に違反する行為であり、悪質だと判断された場合は、逮捕・送検されることがあります。
残業代を支払っていなかったことによって、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられることもあるので注意が必要です(参考:労働基準法第119条)。
企業イメージがダウンする
労働基準監督署から残業代未払いの是正指導を受けたことによって、企業のイメージダウンにつながることがあります。悪質だと判断され、メディアでも取り上げられるようになると、新入社員の採用や会社の経営などにも影響を及ぼすことがあります。大切な従業員が大量離職してしまうこともあるでしょう。
企業には法律を遵守した経営が求められています。残業未払いは法律違反になることをしっかり心にとどめておきましょう。
まとめ
企業が従業員に対して適切に残業代を支払っていなかった場合、割増賃金を支払えば済む問題ではなくなります。経営者が懲役刑や罰金刑を科せられることもありますし、状況が悪化すると会社の経営に影響を及ぼす事態になりかねません。
給料が適切に支払われることで、従業員は安心して働くことができます。残業未払いは、長い目で見るとデメリットしかないのです。残業代の計算方法をもう一度チェックして、法律に則った賃金を支払っていくことようにしましょう。
(画像はphoto ACより)