介護事業経営レポート Vol.368
◆新年度がスタートしましたが・・・
令和2年度がスタートしました。例年ならば気持ちも新たに今期の予算達成を目指してスタートダッシュを、という時期ですが、今年に限っては新型コロナウイルスの影響で巷は暗い話題があふれてしまっています。特養の入居者の大半は基礎疾患のある高齢者であり、マスクや消毒用アルコールの確保もままならない今、経営者の皆様は不安を抱えながら日々施設の経営に奔走していらっしゃることと思いますが、影響を最小限に抑えつつ、この難局を乗り越えていかなければなりません。
◆様々な制度を積極的に活用しましょう
現在のところ、新型コロナウイルスによる感染症の拡大は収束する気配を見せていません。このような事態を受け、企業の安定経営に支障をきたさぬよう国からは様々な緊急対応策が講じられています。社会福祉法人においても活用できるものがありますので、いくつか例を挙げてみます。
・日本政策金融公庫による新型コロナウイルス感染症特別貸付
この制度では、直近1ヶ月の売上高が前年同月等と比較して5%以上減少している場合に最大6000万円まで融資を受けられます。そのうち3000万円までの部分は、当初3年間の利率が基準利率(4/1現在で1.36%~1.65%)マイナス0.9%になりますので、条件次第では0.46%という低利で融資を受けられることになります。
万一に備えて3000万円借りたとしても年間の利息負担は138,000円で済みますから、リスクをカバーするという意味では決して高くないと思います。元金返済については据置期間も設けられていますので、使わずに済めばそのまま一括返済するなど選択肢も広がります。
なお、直近1ヶ月の売上高が20%以上落ち込んだ場合には、3000万円までの部分についての利息は利子補給により実質負担をゼロとする方向で話が進められています。短期入所やデイサービスの新規受け入れ停止等により収入がガクッと落ちてしまった、等の場合には非常に大きな意味を持つと思いますが、稼働を落とさずキープしてこの仕組みを使わずに済むことが最善ですね。
同様の貸付制度は福祉医療機構でも用意されており、ホームページで確認できます。目の前の感染症対策と稼働の維持に注力できるよう、資金面の不安を解消するための方途として検討されてはいかがでしょうか。
・雇用調整助成金の特例措置の拡大
景気後退等による事業活動の縮小により雇用調整をせざるを得ない事業主が、従業員を解雇することなく雇用を維持した場合に賃金等の一部を助成する制度として従来から活用されてきた制度ですが、新型コロナウイルスの影響の長期化が懸念される中で特例措置が設けられ、さらに4月1日からその範囲が拡大されています。
前ページの資料からもわかる通り、生産指標要件(簡単に言えば売上高の減少割合)の緩和、対象となる労働者の拡大(短時間勤務の非常勤職員も対象となります)、助成率の引き上げ(中小企業で最大9割)がその主な内容です。
新卒者の内定取り消しや中小企業における突然の解雇について連日報道されるなど、新型コロナウイルスの影響で雇用環境が日を追うごとに不安定となっており、職員の皆さんの中には自身の雇用に不安を抱いている方がいらっしゃるかもしれません。
そんな中でこうした制度を活用することを全従業員に周知し、急激な経営環境の変化があっても従業員の雇用を守り続けるという姿勢を見せることは、近年の有効求人倍率の上昇で労働力の確保に苦心してきた社会福祉法人様にとっては大きな意味を持つと思うのですが、皆様はどうお考えでしょうか。ピンチをチャンスに変えていく、そんな前向きな発想が求められていると思います。
ここで挙げたもの以外にも様々な特例措置が設けられており、また今後も状況次第で適用要件の拡充や新たな措置の検討がされることでしょう。ウイルスの感染拡大が今後どう推移していくのかわかりませんが、どのような状況下であっても安定した経営を続けられるように、これら特例措置に関する情報のアップデートを心がけていただきたいと思います。経営環境の変化に立ち向かうための武器の種類は、多いに越したことはありません。
◆令和3年度介護報酬改定に向けて動き始めています
慌ただしい状況下でうっかり忘れてしまいそうになりますが、次期介護報酬の改定まで残すところ1年を切りました。3月16日(月)には第176回介護給付費分科会が開かれ、次期介護報酬改定に向けた今後のスケジュールが発表されています。
これまでの報酬改定時と同様、年内には考え方を取りまとめたうえで、年明けに諮問・答申というスケジュールで進めることを予定しているようですが、厚生労働省自体は今後も感染症対策に追われるでしょうから、年度末ぎりぎりになるまで最終的な結果は公表されない可能性も大きいように思います。そうなると、年内に予定されている「具体的な方向性の議論」の中でどのような論点について議論がされるかが施設経営の将来を考えるうえで大きな意味を持つこととなり、注目しておりました。
残念ながら今回は一般傍聴席が設けられず(これもコロナウイルスの影響でしょうか?)、直接聞くことはできませんでしたが、当日の資料はインターネットで公表されており、主な論点(案)について確認することができます。
上記資料では、平成30年度報酬改定時の柱であった4項目と、今回の改定における主な論点である4項目が列挙されています。一つ一つを見るとほぼ同じ文言が並んでおり、診療報酬との同時改定であった前回と基本的には同じ考え方で進めていくと思われます。
一つ気になるのは4項目のうちの3つ目です。前回改定時には
「多様な人材の確保と生産性の向上」
となっていました。この方針は、例えば特養では見守り機器を導入することで夜勤職員配置加算を算定するための人員基準を緩和する、といった部分に反映されていましたが、今回の改定においては
「介護人材の確保・介護現場の革新」
と文言がより踏み込んだ形に変わっています。なかなか生産性の向上が進まない介護の現場を、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)による先進機器を駆使してガラリと変え、今後も続く労働力不足の状況にも対応していこうという強い意向が感じ取れませんか?
タイミングを合わせたわけではないでしょうが、2月19日には政府が「全世代型社会保障検討会議」を開催し、介護サービスの生産性向上をテーマとして話し合いがもたれています。その資料の中で、ICT機器・センサー・ロボットの活用により質を落とすことなく人員配置を2.8対1まで向上させている法人様の取り組みを「先進事例」として挙げており、報酬改定にもこの考え方が反映されてくるのではという気がしています。
具体的な内容はこれから詰めていくことになりますが、これまでの傾向を考えますと、先進機器の導入を前提として、人員配置が算定要件となっている加算についての要件の緩和や新たな加算の創設といった点が経営にとってプラスの面で出てくる可能性があるでしょう。また、介護報酬以外にも先進機器導入に対する補助金の拡充といったメニューが用意されることも想定されます。
一方で、マイナスの面も想定しておかなければなりません。現状、特養の人件費率は60~70%といわれており、人員配置は2.0対1ぐらいが平均とされています。仮に賃金水準が今後も変わらないとすると、人員配置2.8対1を達成すると単純計算で人件費率は45~50%程度にまで下がることになり、そのうちの一部は利益率の押し上げに寄与することとなるはずです。「法人税を負担していないのに上場企業並みの利益率になるのはおかしい」という理屈でマイナス改定が繰り返されてきた過去の歴史が示す通り、利益率が上がってそれでよしとはならず、中長期的には基本報酬の引き下げが間違いなく視野に入っていると考えます。
同じ利益率をキープしても、収入額が下がれば手元に残る金額は少なくなります。建設時の設備資金の借り入れが残っている場合、返済が苦しくなる可能性もあります。こうしたリスクも想定して備えていくことが求められているのではないでしょうか。
次期報酬改定の行方がどうなるのか、しばらくは目を離せません。当レポートでも、逐次お伝えしていきたいと思っています。