副業・兼業についての注意点と規程の必要性
最近、副業・兼業を希望する従業員は増加傾向にある一方です。労災保険においても、令和2年9月1日から複数の勤務先の、賃金額を合算した額や業務負荷の総合的判断により労災認定が行われるようになりました。本来、労働時間以外の時間をどのように利用するかは従業員の自由であるため、会社が副業や兼業を認めない、とすることはできません。しかし、副業や兼業が行われると本業に支障が生じる場合もあり、労務管理において注意が必要となります。
■労務管理において気をつけるポイント
① 異なる会社(事業場)で働く時間も通算する。(労働時間の把握)
② 長時間労働による心身への悪影響を把握する。(安全配慮義務)
③ 情報漏洩などの発生を防ぐ。(秘密保持契約/競業避止義務の確保)
① 労働時間の把握
従業員の労働時間は、異なる事業場(事業主が異なる場合も含む)で働く場合も通算しなければなりません(労働基準法第38条1項及び行政解釈)。そのため従業員が副業・兼業を行った場合は、各事業場における労働時間数を通算し、法定労働時間を超える場合は、割増賃金の支払いが必要となる場合があります。ただし、割増賃金の支払いが必要となるのは、基本的に、後に労働契約を締結した会社です。これから従業員に副業・兼業を認める場合は、基本的に割増賃金の支払いは必要ありません。しかし、他社での勤務がある人を採用する場合は、割増賃金の支払いが必要となるケースがありますので注意が必要です。
② 安全配慮義務
会社は、従業員が身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならない、とされています。従業員が副業・兼業をしている場合、その全体の業務量・時間が過重であることを把握していながら、何の配慮もしないまま従業員の健康に支障が生じた場合は、会社の責任が問われることになります。
③ 秘密保持契約/競業避止義務の確保
従業員は一般的に、会社で知り得た業務上の秘密を守る義務を負っていますし(秘密保持義務)、就業する会社と競合する業務を行わない義務(競業避止義務)も負っていると考えられます。副業・兼業により、他の会社に業務上の秘密が漏洩する場合や、会社の利益を不当に侵害されないように注意する必要があります。
■ 副業・兼業のリスクを回避するためにはどうしたよいか
◆ 許可制にする
従業員が副業・兼業を希望する際は、就労先、就労日数・就労時間などを会社に申告させ、自社の業務の他に行っても問題のない副業・兼業かどうかを確認し、問題のないものについて許可します。
これにより、
・自社の労働時間と合算して、長時間労働にならないか
・競業避止に当たらないか
を確認できます。
◆ 他社での勤務状況を定期的に報告させる
従業員の勤務状況が、把握しているものと変わっていないか定期的に確認します。長時間労働などによって、労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止、あるいは制限できるようにする規程も必要です。
◆ 無申告での副業・兼業や、虚偽申告に対する懲戒規程を定める。
他社での業務については、従業員の申告によってしか把握できません。無申告や、虚偽報告によって、従業員の正しい就労状況が把握できないという状況がおこらないようにする必要があります。
以上のとおり、副業・兼業には様々な注意点があることから、各会社における必要な労働時間の把握・管理や健康管理への対応、秘密保持義務、競業避止義務についての対応など、副業・兼業についてルールを明確化する必要があります。
全てを就業規則に定める必要はなく、内規として定めておくことでも有効です。
下記が就業規則の簡単な規程例です。
規定例(副業・兼業)
第 ○ 条 従業員は、会社の許可を得た場合は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2. 第○条の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを許可しない又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
■まとめ
副業・兼業による労働時間や健康管理の問題などから考えると、従業員の副業申出には許可制をとり、本業や健康に支障のないものに限り許可することがよいでしょう。しかし、コロナの影響により、従業員の労働時間が減っているような場合、従業員の副業を認めざるを得ない場合もあるでしょう。その場合、従業員が全ての職場で通算何時間就労しているか、健康状態はどうか、を把握しておく必要があります。未払残業代の請求や、長時間労働による労災事故(過労死、メンタル障害)等へのリスクに備える必要があります。
コンパッソ社会保険労務士法人
重森 光代