贈与の哲学

 昨今、新聞等で相続の問題がよく取り上げられている事は皆様もよくご存じの事と思いますが、一口に相続といってもその内容は千差万別で、その対応も様々です。
 また相続に関連して、贈与の事もよく耳にされている事と思います。
 
 相続税が高額になる場合など、贈与制度を利用する事により相続税の納税額を抑える効果があるため、相続税の節税効果を図るために贈与を行うという事です。
 
 しかし、ここでいう贈与とは、子供たちの生活援助や学費援助、又は、相続財産の前渡し等の事を贈与として捉えているものと思います。
 では、お小遣いとしての金銭贈与や、成人式等でのお祝い等の金銭等の受け渡しは贈与税法上の贈与となるのでしょうか?
 
<お小遣いやお祝のお金は贈与になる?>
 法律上は原則として、個人から受け取る財産については贈与税が課税されるが、社会通念上課税するには好ましくないもの政策上課税しないものとして除かれるものが記載されており、そこに個人から受ける香典花輪代年末年始の贈答祝物又は見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるものは課税しないとされています。
 
 また、夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものも課税しないとなっていますが、問題となるのはこの社会通念上相当や通常必要と認められると言ったキーワードではないでしょうか?
 
<“社会通念上相当”とは?>
 桜井栄治先生の『贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書) 』では、室町時代から貨幣の流通に影響を受けつつ浸透し、この贈与という行いだけでなく、皆々のその地位に見合う贈与や贈答が不可欠であり、その損得勘定、釣り合いということに非常に敏感であった。かれらは、損得が釣り合っている状態を「相当」、釣り合ってない状態を「不足」とよび、他家との紛争や交際ではつねに「不足」の解消と「相当」の充足とを求めたのであると述べられています。
 つまりその者の社会的地位もさることながら、いままでの行い等にも影響するとともに、今後にも影響する事等総合的に鑑みたものが「相当」と言えるのではないでしょうか?
 
 また、贈与には賄賂的な意味合いも含まれていると思います。例えばお孫様にお小遣いをあげるといった行為の裏には、お小遣いをあげておけば、その分自分のところに顔を見せにきたりするし幾らかでも懐くし情も深まるだろうと、功利的な考えが幾分あるものと思います。誰だって貰わないより貰うほうが嬉しいのは当たり前です。
 また贈与は単純に行為であげようと思うだけでなく、マルセル・モース著の『贈与論』にも「与える義務」、「受け取る義務」、「返礼の義務」と論じています。
 つまり、孫は小遣いを受け取る義務があるとともに、それを受け取るという事はおじいさんのところに顔を見せるといった義務等を果たさなければならない事を約束する事となります。
 様々な考えはあると思いますが、ここでは贈与を行ったけれども全く顔を見せない等不義理をした場合は遠慮せず、叱ってあげましょう。金額の多い少ないに関わらず。孫は受け取る義務があり、そこで受け取ったのだから返礼の義務を果たす義務があるのですから。
 
 また贈与ではありませんが、相続には「遺留分」という相続人の権利がありますが、上記に立てばそれは義務ではありますが、それを受け取るという事はそれに見合う返礼の義務を負うという事に他なりません。
 昨今は単純に財産としての相続・贈与という事になっていますが、贈与行為自体はそれぞれが相手を敬い行うもので、自分自身を与える事でもあります。例えば長女の連れ合いと気が合わないと言って長女だけに贈与しないと言う事はそもそも争いの素を作っている事に他なりませんし、逆の立場で遺留分だけ請求してそれで終わりとする事も義務を果たしていないという事では同じ事です。
 
 相続・贈与される財産だけでなく、それに伴う相手を思い敬う気持ちがついている事に思いをはせながら、両親・祖父母等に感謝しながら日々を過ごしたいものです。また上記の著書には贈与における経済効果についても述べられています。
 政府でも課税政策上の優遇処置を設けて贈与を進めようとしています。
 贈与の効果をよりアップするため、戦略的に贈与を進めてみては如何でしょうか?
 
                                           
                                               渋谷事務所 佐々木 輝久


関連記事

■宿泊税について

■個人事業廃止後に貸倒れが発生した時の処理は?

■住民税特別徴収税額決定通知書とワンストップ特例

■「会計上の負債と法律上の債務」

■平成30年度税制改正~小規模宅地等の特例の見直し~