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公益法人の収支相償の対応策について

今回は、公益法人に課される財務3基準のうち、特にクリアすることができない法人が多い収支相償の対応策についてご紹介します。

公益法人には、税務上の優遇措置や寄付が受けやすい等の利点がありあすが、公益認定時および認定後も継続して「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、認定法)」第五条に定める18の認定基準を満たさなければなりません。
認定基準を満たせずに認定取消となれば、公益目的取得財産を寄付しなければならず(認定法第30条)、法人運営の継続に大きな影響を与えます。

認定基準には、定款への記載で充足される項目もあれば、事業活動上の規制受けるものや財務状況、運営方法について一定の水準を定めるものもあります。このうち会計処理や内部統制に関する大きな事務負担を要するのが財務3基準と呼ばれる以下の3つの基準です。
   1.収支相償
     公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えてはならない。
   2.遊休財産額
     毎事業年度の末日における遊休財産額は、1年分の公益目的事業に要する費相当額を超えてはならない。
   3.公益目的事業費率
     公益目的事業に関する費用の割合が事業費、管理費の合計の50%以上であること。

財務3基準のうち、特に収支相償を満たせない法人が多く、事業年度終了後3か月以内に提出する「事業報告等に関する提出書」を作成する上で大きな問題となっています。

収支相償が満たせなくなるのは、主に公益目的事業の収入が多いためで、主に以下の原因が考えられます。
   1.例えばセミナー受講者や資格試験の受験者が予想を超えて増加した時や、健康診断の受診者増加などにより、事業収益が想定外に増加
     した時。
   2.資産運用収益によって公益目的事業を運営している法人が、金利の上昇や増配により予想以上の利息や配当を得た時。特に元本を公益
     目的保有財産として申請しているため、その利息や配当を公益目的事業の収益に計上せざるを得ないケースがあります。
   3.受取会費や寄付金で公益目的事業を運営している法人で、想定外に受取会費や寄付金が増加した時。
   4.収益事業で予想を超える収益が生じて、公益目的事業への繰入が増加した時。
   5.行政からの補助金で公益目的事業を運営している法人がコストダウンを図り、補助金申請時の見積費用を想定外に圧縮できた時。

上記の1.~5.は一例に過ぎませんが、このように収支相償に適合しない場合に考えられる対策は大きく2つに分けることができます。

1.短期的な対策として、既に発生した公益目的事業会計の当期経常増減計算で生じた剰余金を翌年度以降に繰り延べ、将来の公益目的事業に使用する方法で、具体的には以下が挙げられます。
   (1)剰余金を直接翌年度に繰り延べる方法
      公益目的事業会計の当期経常増減額の計算で生じている剰余金を翌年度に繰り延べる方法で、収支相償を満たせなかった法人のうち
      相当数がこの方法を採用していると想定されます。
      注意点としては、事業報告等に関する定期提出書類別表A(1)に、公益目的事業会計の当期経常増減計算剰余金が生じた理由とその
      処分方法を記載すること。また、翌年度に剰余金を使用するには、原則として翌年度の収支予算書の当該事業の当期経常増減が赤字
      であり、その赤字が前年度に発生した剰余金の額を上回っていることが必要です。

   (2)特定費用準備金を活用する方法
      公益目的事業会計の当期経常増減計算で生じた剰余金を、将来発生する事業のため、特定費用準備資金を設ける方法です。
      この方法を採用するには、理事会等の決議により特定費用準備資金の取扱規程を設け、当該規程に従い理事会の決議等により特定費用
      準備資金を計上しなければなりません。
      また当該規程は、積立目的、積立限度額、取崩制限を記載して閲覧に供する必要があります(認定法施工規則18条3項5号、
      公益認定等ガイドライン(以下、ガイドライン)Ⅰ-7(5))。
      なお、特定資産準備金は他の資金と明確に区別しなければならないとされていますが(認定法施工規則18条3項2号)、特定
      資産として財産目録に表示することで、この要件を満たすこととされています(ガイドラインⅠ-7(5))。

   (3)資産取得資金を活用する方法
      収支相償の第2段階で収益事業等の50%超を繰り入れる場合に、公益目的事業会計の当期経常増減計算で生じた剰余金を、将来行う
      公益目的事業の設備投資のための資産取得資金を設けることにより、収支相償の第2段階の費用として計上する方法です。
      この方法を採用する場合も特定資金準備資金を活用する場合と同様に、規程の創設や備置き、閲覧に供することを要します
      (認定法施工規則22条4項、ガイドラインⅠ-8(3))。また、他の資金と明確に区分しなければならず、特定資産として財産目録に表示
      することでこの要件を満たす点も同様です。

   (4)公益目的保有財産(現物資産)を購入する方法
      収支相償の第2段階で収益事業等の利益の50%超を繰り入れる場合、公益目的事業会計の当期経常増減計算で生じた剰余金のうち、
      当該決算年度で公益目的事業の設備投資に支出した金額は、収支相償の第2段階の計算上、費用として認められます。
      この方法を採用する場合、当該年度中に資産を購入しなければならないため、決算時に公益目的事業に剰余金が生じることが判明して
      から現物資産を購入することはできません。
      ただし、収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合には、翌年度に財産購入の計画があり、剰余金をこれに充当する旨を別表A(1)に
      記載すれば、収支相償の第2段階は満たされているものとされます。

   (5)公益目的保有財産(金融資産)を積立てる方法
      上記(4)と同様に、収支相償の第2段階で収益事業等の利益の50%超を繰り入れる場合に、公益目的事業会計の当期経常増減計算
      で生じた剰余金のうち、当該決算年度で公益目的事業に運用益を使用する長期保有財産のために積立てた金額は、収支相償の第2段階
      の計算上、費用として認められます。
      ただし、収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合には、公益目的事業で生じた剰余金相当額を公益目的保有財産に積立てる予定で
      ある旨を別表A(1)に記載すれば、収支相償の第2段階は満たされているものとされます。
      また、この方法を採用する場合、積立資産は基本財産又は特定資産でなければならず、決算時に公益目的事業の剰余金が生じることが
      判明した段階で、事後的に公益目的保有財産に積立てる場合には、当該額を流動資産から基本財産または特定財産に振替えることに
      なります。
      注意点としては、公益目的保有財産である基本財産又は特定資産への積立ては、原則として取崩しが認められない
      (内閣府FAQ V-4-8)ため、ガイドラインには記載されていませんが、実質的に収支相償の抜け道ととられ、この方法だけをもって
      収支相償対策をするならば、認定基準を満たさないと判断される可能性があります。

2.長期的な対策として、事業の収支構造を見直して、公益目的事業会計の当期経常増減計算で剰余金が生じないように変革を図る以下の方法です。
   (1)会費規程等の見直しによる会費及び入会金の充当先の変更
      公益社団法人の社員が支払う会費及び入会金は、会費規程等で使途が指定されていれば当該使途に、使途の指定がなければ50%を
      公益目的事業会計の収益に計上することになります(認定規則26条1号)。
      会費規程等の見直しのためには、社員総会等で社員の合意が必要となりますが、会費及び入会金の全額を法人会計の収益に計上でき
      るものとすれば、収支相償の改善に著しく寄与することになります。
      注意点として、過去に遡って会費及び入会金の拠出目的を変更するのは、社員の信頼と利害を損なうことになるため困難であること。
      また、会費及び入会金の使途を定めた規定等を変更した時は、定款変更に準じて行政庁への変更届が必要となります(ガイドライン
      Ⅰ-17(3))。

   (2)指定正味財産として受け入れる寄付金の創設
      例えば寄付金の大部分が特定の企業から提供され、これによって事業運営しているような公益財団法人の場合、寄付金の使途の指定が
      なければ全額を一般正味財産増減の部の収益に計上することになります。
      そこで、寄付者による使途の指定の新設や、寄付金の募集規定を変更して、寄付金の全額を特定の事業の不足額に充当する旨を定め
      れば、当該寄付金は受領した時点では指定正味財産を財源とする特定資産になり、その後に事業に消費した額と同額が一般正味財産の
      経常収益に振替えられるため、収支相償に適合しやすくなる。
      注意点としては、過去に遡って寄付金の拠出目的を変更することは困難であること。また、指定正味財産として留保している額が
      遊休財産の計算上、5号財産又は6号財産として控除対象財産になるためには、寄付金の使途記載書類を据置、閲覧に供することが
      義務付けられています(認定法施工規則22条5項及び6項、内閣府FAQ V-4-7)。

   (3)退職給付規程の新設等による引当金の創設
      平成16年基準及び平成20年基準の公益法人会計基準を適用している法人は、退職給付会計を適用することが義務付けられています。
      しかし、退職金規程を設けていない場合は、事実上退職金を支払っていても、退職給付費用を計上できないため、退職金規程を適正に
      整備して退職給付費用を計上することにより、公益目的事業の収支相償の充足に寄与します。
      また、賞与引当金の計上や消費税の未払計上を実施していない法人では、これらを実施することで、一時的ではありますが収支相償の
      適合に寄与します。

   (4)複数の公益目的事業の事業区分の統合
      同一目的で行っている複数の公益目的事業は、1つの事業に統合することが可能です。したがって、公益目的事業の事業区分を細分化
      しすぎている法人は事業を統合することにより、個別の事業では収支相償の第1段階の適合が困難でも、複数の事業をまとめれば損益
      が通算され、収支相償の第1段階に適合しやすくなります。
      さらに、公益目的事業全体を1つに統合すれば、収支相償の第1段階の判定は省略し、上述してきたような収支相償適合への選択肢が
      広い第2段階の判定のみを行うことになります。

以上のように、収支相償の不適合については、会計面を中心とした法人運営上における工夫により、ある程度解消する手法が存在します。
決算を進める中で、財務基準の不適合が明らかになった場合でも、公益認定取消もやむなしと諦めてしまうのではなく、どのような対策をとりうるのかを的確に理解した上での対応が必要となります。
上記についてご不明点、ご質問がございましたら、お気軽にお問合せください。

出典:TKC全国会公益法人経営研究会 財務3基準未達対応レジュメ・テキスト

渋谷事務所 宮内剛

 

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