
介護関連の資格取得費用を法人が負担する場合の注意点
昨今の少子高齢化の影響により労働力の人口も減少の一途を辿っています。これは私どもが関与させていただいている介護事業を営む多くの社会福祉法人様においても例外ではなく、人材確保こそが最大の経営課題と捉えている経営者の方も多いのではないでしょうか。
募集の間口を広げ、多くの人に介護業界に目を向けてもらう意図から、法人が介護に関連する資格取得費用を負担してあげることを強調した求人も目立つようになってきましたが、その際にいくつか落とし穴がありますので見ていきましょう。
<資格取得費用を法人が負担する場合>
所得税法では、技術や知識の習得費用で次のいずれかの要件を満たしていて、その費用が適正な金額であれば給与として課税しなくても良いことになっています。
(1)会社などの仕事に直接必要な技術や知識を役員や使用人に習得させるための費用であること。
(2)会社などの仕事に直接必要な免許や資格を役員や使用人に取得させるための研修会や講習会などの出席費用であること。
(3)会社などの仕事に直接必要な分野の講義を役員や使用人に大学などで受けさせるための費用であること。
介護関連の資格取得費用は、上記(1)または(2)に該当しますので課税しなくても良さそうですね。ただし、法人がこれらの費用の全額ではなく一部しか負担しないような補助制度を設けている場合は、その補助した部分の金額は給与として課税処理する必要がありますので注意が必要です。
<早期に退職した場合に資格取得費用の返還を求めるのは合法?>
資格取得費用を出してまで確保した人材に長く働いてもらいたいと思うのは当然のこと。そこで、早期退職を防ぐ目的で「資格取得のための費用は◯年以内に退職した場合には返還します」という覚書を職員からもらいました。これは問題ないでしょうか?
実は、この方法ですと労働基準法に抵触する可能性があります。
労働基準法第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
労働者には退職の自由が認められており、この第16条はその自由を確保する意味で設けられているのですが、資格取得費用の返金を約束させることは「違約金を定めること」と見なされ、返還を求めることができなくなってしまうのです。
こうしたトラブルを防ぐためには、本人との間で「金銭消費貸借契約」を締結して資格取得に必要な費用を貸し付け、一定期間勤続後にその返済を免除する方法を検討しましょう。
社会福祉法人が安定した経営を続けるには、人材の確保が不可欠です。せっかくの施策が無用なトラブルに繋がることのないように十分注意してください。もちろん、どんな施策よりも「ここで働き続けたい」と職員が思ってくれる法人であることが大前提であることをお忘れなく。
出典:国税庁HP