
よくある粉飾決算とその見抜き方
昨今の日本では、企業の粉飾決算が相次いでいます。そこで今回は、よくある代表的な粉飾決算のパターンや、粉飾決算の見抜き方について、大まかではありますがご紹介したいと思います。
【収益の過大計上】
粉飾のパターンで圧倒的に多いのは収益の過大計上です。主に「売上の架空計上」や「売上の前倒し計上」により行われます。
売上の架空計上の代表例として「循環取引」が挙げられます。循環取引とは、売上を多く見せかけるために複数の会社で商品を転売する方法です。
A社がある商品に利益を上乗せしてB社に売った後、今度はB社がその商品をC社に利益を上乗せして売り、最終的にはC社がA社に転売します。このことでA社は売上を大きく見せることができます。C社から商品を買い戻す際はC商品として仕入れるため、帳簿上すぐに不正を見抜きにくくなります。ただ、A社が商品を買い戻すことが予め決まっているため、通常の商品に比べて利益率が極端に低く設定されていることが多く、そこから循環取引が発覚することもあります。
この他、「バーター取引」といって、A社とB社がお互いの商品を買い合うことで、お互いの売上を大きく見せる交換取引もあります。
【費用の過少計上】
発生した費用を計上しない、あるいは資産計上することで、費用を過少計上する方法があります。請求書の改ざん等により未払経費を計上しない、売上原価を棚卸資産、経費を前払費用にして資産計上することで、費用を少なくします。
【著しく残高の多い資産項目はないか】
これまでは損益計算書ベースでお話ししましたが、粉飾決算をすると貸借対照表にも歪みが生じます。例えば売掛金が売上高の2倍あったら、売上の回収を2年後に回収するということになり少し違和感を覚えると思います。そこから架空売上の発見に繋がることもあります。
また上記の状態を避けるため、協力会社間で売掛金を貸付金に振り替えることもあります。例えばA社がB社に架空売上を計上する場合、実際に商品を売っていないのでA社に入金はありません。そこでA社はC社に架空売上相当分の金銭を貸付け、その後C社がB社に何らかの取引を理由に出金し、B社がA社に名目上、仕入代金の支払として支払うことでA社は売掛金を回収します。粉飾を重ねるほど貸付金が膨らみますが、回収できないため数年後に貸倒損失を計上します。
この他、同様のスキームで「貸付金」を「ソフトウェア」の購入としてA社がC社に支払うことも考えられます。この場合、A社ではソフトウェアを毎年償却することで費用化されるため、一度に貸倒損失を計上する場合に比べて、より不正をごまかしやすくなります。
粉飾は巧妙なスキームを伴うこともあり、容易に発見できないことも多々あります。ただ、不自然に大きい資産科目については、その理由に合理性があるのか検討します。その一つの手法として、売掛金や棚卸資産の回転期間の分析があると思います。また数年分の損益計算書を並べて業績推移を辿り、売上高や利益水準の合理的な説明ができるかどうか検討すると、不正が発見しやすくなります。先述の循環取引では、なぜ利益率が低いのか等、担当者や取引先に質問し、それを裏付けるために契約書を確認することも必要ですが、より基本に立ち返って「その取引に経済的合理性があるか」という視点から取引を見ることが重要だと思われます。
参考文献:「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方 秦 美佐子 プレジデント社
渋谷事務所 中田 絵莉子