
「未払残業代を支給した場合の税務上の取扱い」について
昨今、社会問題となっている違法な長時間労働の解消に向けた取組みとして、現在、労働基準監督署は、長時間労働が疑われる事業者に対して調査や監督指導を強化していますが、そのような取組みを行うことにより、労働者に対して実労働時間に即した割増賃金の支払を命じる行政指導を受けるケースが増えてきているようです。
今回は、過年度の未払残業代を支給する際の税務上の取扱いについてご紹介致します。考え方と致しましては、大きく2つに分けることが出来ます。
① 未払で過年度の残業代を「一時金(精算金等)」として支給する場合
② 未払で過年度の残業代を実労働時間に基づき「過年分の給与」として支給する場合
上記の2つの方法を法人税法上の取扱いと所得税法上の取扱いに分けてご説明致します。
法人税法の取扱いと致しましては、①及び②に関わらず、「支給した事業年度の損金の額に算入」されることになります。
国税通則法23条の規定により更正の請求を行うことも考えられますが、「申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと,又は計算に誤りがあったこと」には該当せず、法人税法22条の規定により、当期に初めて債務確定の要件が満たされるため、当期の損金として処理します。
次に所得税法上の取扱いと致しましては、どちらの方法を選択するかによって給与所得の帰属時期が異なります。
① 未払で過年度の残業代を「一時金(精算金等)」として支給する場合
労働基準監督署の行政指導等により労使合意の上支払額を算定し、実質的には損害賠償金(過去の労働の対価に対する精算)として一時に支給することから、賞与と同様に支給を受けた年分の給与所得として認識します。
② 未払で過年度の残業代を実労働時間に基づき「過年分の給与」として支給する場合
所得税法基本通達36-9⑴において「支給日が定められている給与等についてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日」と規定されています。
上記記載の通り、雇用契約等により「支給日が定められている給与等」に該当するため、本来各支給日に支払うべき残業手当が一括して支払われたものと認められます。よって、本来支給を受けるべきであった支給日の属するそれぞれの年分の給与所得として認識することになります。
また、会社の取扱いと致しましては、既に支払済みの給与に未払残業代を加えて、再度年末調整(確定申告)を行い、各市町村に給与支払報告書の再提出を行わなければなりませんので注意が必要になります。
上記取扱いは税務・労務面で重要な判断となりますので、経営者、社労士、従業員の方々等関係者と協議し、決定して下さい。何かご質問等ございましたら、コンパッソ税理士法人までお問い合わせ下さい。
参考:国税庁タックスアンサー「№2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期Q&A」
渋谷事務所 松井 雄哉