
成功する事業承継の要点 医療法人クリニック編 2
この度の東日本大震災からの1日も早い復興を心よりお祈り申しあげるとともに、コンパッソグループも全力でご支援致します。
前回のつづきです。
2.第三者への譲渡のケース
(1)具体的事例による課題と対処
(1-1)市内の出産の半数以上を担う産婦人科。院長57歳で後継者無く、激務から60歳前のハッピーリタイアを希望。
個人で2年、法人設立後7年経過。理事3名で出資額910万円(持分は理事長600万、理事長夫人300万、
理事長母10万)。年間医業収入5億5千万円で、土地・建物は法人所有。産科病床閉鎖への危機感から、行政の後押しも
あり、55歳の他所勤務産科医が後継者に決まった(持分全額一人で買取り)。
(1-2)両者の税理士・コンサルタントが介在し、資産査定。理事長8千万、理事(配偶者・医師)4千万の退職金を支払い後、
3億6千万円で3名の社員が持分に応じ譲渡。のれん代(超過収益力)も考慮に入れているが、旧理事長側の
産科医院の継続の公益性への配慮により評価額は低めになった。
産科という特殊性から半年以前から新患の受け入れは調整し、患者の直接の引継は行わなかったがカルテは全て承継、
また30名の従業員は全員引継いだ。
(1-3)旧理事の退任と新理事の就任、また診療所名称の定款変更は、全て同日で認可(医療法人の名称のみ後日に変更)。
理事の同時全員入れ替えは、医療法人格の売買禁止に抵触するとして行政側で難色を示し、併行した在任期間を指導される
ケースもあるが、先の事情もあり行政の側も協力的で、保健所や社会保険関連の届出事項の変更もスムーズに行えた。
(2)第三者譲渡のまとめ
(2-1)理事(長)の変更は、一度前理事が退社し持分の払戻を受けた後、新理事(長)が同額を出資すべきとの解釈も
あるようですが、この場合は1で述べたような高率の配当課税が発生します。社員間での出資持分の譲渡については、
昭和57年6月の浦和地裁判決でも定款に反しない限り容認されるとし、実務的にも譲渡が行われており、
法人からの持分払戻ではないため、配当禁止にも抵触しないと考えられます。
譲渡の前提として、承継前に社員の身分を獲得(入社)しておくことが重要です。
(2-2)第三者承継の場合、譲渡価額(評価額)はのれん代の評価を含め当事者間の合意で決定できますが、信頼できる
税理士等の介在が望まれ、その際、隠れ債務や医療事故、過去の診療報酬不正請求などのリスクの危険担保や、
借入についての理事長個人保証の整理等もしておく必要があります。
(2-3)承継前の適正な退職金の受給とともに、理事長所有の土地・建物など主要な資産については、事前に法人に譲渡して
おくのか、承継後も賃貸関係を継続するのか・新旧理事長間で譲渡するのかなど、承継後の収入の確保や相続時の
財産評価なども検討しておく必要があります。
(2-4)医療法改正で設立が出来なくなった持分のある(経過措置型)医療法人を、第三者承継により取得することも
考えられますが、法人格の売買にならないような配慮・手続きが望まれます。
次回につづきます。