個人クリニックの事業承継と税金

厚生労働省の調査では開設者の平均年齢は病院で64歳、診療所で60歳を越え、70歳を超える院長も30%ほどを占めており、スムーズな事業承継は喫緊の課題となっています。今回は個人クリニックの事業承継について、留意しなければいけない税金の仕組みを考えてみましょう。

事業の承継・資産の移動にともなう所得税等の留意点
個人クリニックの承継は、現院長の「廃業」と新院長の「開業」の手続きを通じて行われます。保健所や厚生局、税務署等への様々な所定の手続きが必要となり、診療所の安定的な引き継ぎ、保険診療の継続のためにはカルテ・患者の引き継ぎや遡及等も含め行政側との綿密な打合せも重要です。具体的な承継手続きは、事業用の資産である土地、建物、医療用機器などの移動を通じて行います。
移動の方法としては、当事者間での譲渡、賃貸(リース)、贈与などが想定されますが、承継の形態に合わせ留意すべき点があります。
事業承継の形態については大きく分けて身内への承継、第三者への承継、更にそれらが望めないときには廃業という選択肢もあります。親族であれ第三者であれ基本的には土地、建物、医療機器については譲渡か賃貸、また薬品等の棚卸し資産や未収金については売買、また債権者の同意があれば借入金等の債務について引き継ぐことも考えられます。ここではまず一義的に、資産の譲渡や賃貸に係る譲渡所得や不動産所得に伴う所得税について検討することになります。また譲渡する側が消費税の課税事業者であるときは、これらの譲渡・売買に消費税が課税されますので承知おきください。なお親族間の取引であれば適正な範囲の譲渡価額や賃貸料となるよう、税務上配慮する必要があります。売買であれば親に譲渡所得が発生し、子は購入資産につき減価償却費が必要経費となります。また賃貸の場合、生計が同一であれば、親の資産の償却費や固定資産税は子の事業の必要経費に算入され、生計が別であれば親には不動産所得が発生し、子は賃借料が必要経費となります。基本的には以上の通りですが、親族への承継ではでは注意が必要です。

親族承継の留意点
親族への事業用の資産の移動については後継者の資力も考慮し、先の譲渡や賃貸の他に贈与が選択肢となります。所得税以外に、後継者への贈与税の負担についても検討が必要ですが、個別の資産の移動における贈与税の負担のみではなく、ここでは院長の親族への財産の承継すなわち将来の遺産の分割、相続税対策という視点が不可欠となります。

課税が強化される相続税・贈与税
すでにご承知の通り平成27年1月1日以降の相続等については、次のように基本的に課税が強化されます。  
   *基礎控除の引き下げ
      (現行)5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
(改正後)3,000万円+600万円×法定相続人の数
   *最高税率の引き上げと税率構造の見直し
    (現行)最高税率50%(3億円超の財産に適用)
      (改正後)55%(6億円超の財産に適用)
   *贈与税課税の見直し
      最高税率を相続税の最高税率に合わせ55%とする一方、子や孫への直系尊属からの贈与については、税率が緩和されました
このような状況の中での医院の承継や相続では、1.争いを避ける争族対策 2.相続税の納税資金の確保 3.相続税の節税 の(順での)対策を講じることが大切です。
幸いにしてご親族にふさわしい後継者がおられれば、院長の引退計画に合わせたスムースな引継を、今回の診療所の資産の承継(贈与)と将来の財産全般の相続の税負担を見極めながら行うことが可能になります。その対応が遅れ生前での承継のタイミングを失してしまうと、現院長の死亡とともに事業用の土地、建物、医療機器等も一括して相続財産となり、相続税負担の増大や相続人による財産分割問題・遺産分割争いの発生など、クリニックの円滑な承継に支障を来す恐れがあります。事業の承継と財産の承継の両面から最善の方策を検討しましょう。
ポイントは、院長の資産や負債あるいは医業や不動産所得なども含めた収支状況などを、医業と医業以外に分けて把握することです。事業用資産は、相続税負担などと比較しながら早めの譲渡や贈与を通じて後継者へ確実に引き継ぎ、相続の場面では事業承継者以外の相続人も含め相続財産の分配や納税資金の手当など、事前の移動を考慮に入れた相続人間での合意が得られるよう配慮します。

計画的な相続・贈与(税)への対策
生前承継か相続発生による承継かにかかわらず、スムースな医業の承継や相続の対策として遺言の作成や、生前の贈与が有効になります。相続人間の話し合いにすべてを委ねることなく、事業の承継を含む相続人への遺志を遺言書により明確にし、また相続人間の遺留分や特別受益分に配慮し、新たな贈与税制を取り込んだ公平感のある計画的な贈与を検討しましょう。
ご存じの暦年連年贈与や相続時精算課税制度などを利用した早くからの計画的な贈与、また配偶者に対する居住用財産の贈与の特例の他、子・孫への住宅資金の非課税贈与、同じく教育資金の一括贈与など新たな制度や改正が日々行われています。適用要件など会計事務所に確認しながら、生前の資産の移動と相続財産の配分、引継に留意してください。
なお、相続税の小規模宅地等の減額特例が平成27年1月より改正され、居住用宅地の330平方メートルまでと事業用宅地の400平方メートルまでに拡大され、またケースにより併用適用されることとなりました。相続時の所有、引継の形態により適用に制限がありますので、こちらも確認のうえ有効にご活用ください。

何か不明点、ご相談などございましたら、コンパッソ税理士法人までお問合せ下さい。

代表社員税理士 丹羽篤

 

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