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脱税を指示する社長と指示を受けて実行する社員の罪と思い


私は、大学を卒業後東京国税局に採用され、定年退職までの大半を東京国税局査察部に在籍しました。

脱税者の多くの方々は、ごく普通のまじめな経営者であり、会社の安定や将来への不安のため、やってはいけないこととは十分知りながら不正を行った方たちでした。とはいえ脱税の事実がある限りは、脱税者として検察官に告発をすることは査察官として当然の使命であり、見逃すことはできませんでした。

脱税は一人ではできない犯罪で、売上除外、売上の繰り延べ、架空経費、架空人件費、棚卸除外など、必ず経理担当の役員か社員が手伝わされます。査察調査に着手した日の、経理担当の役員や社員の方の驚きと、少しホッとした表情を、今も忘れることはできません。誰も脱税の片棒を持ちたくありません。社長からの命令であれば、社員は逆らえません。嫌だと思いながら、指示のまま不正を手伝わなければいけない悔しさや不条理を、生活のためとこらえていたわけです。

脱税を行うことは、大切な社員の方も苦しめることなのです。

ところで、脱税で告発されるとき、手伝った役員や社員の方は、同様に脱税の共犯者として告発されるのでしょうか。国税庁では、特別な利益(脱税協力の特別ボーナス等)を得ているか、積極的に脱税を誘導しているか等の事実関係を調べて、共犯者として告発するかどうか判断しています。よほどのことがない限り、弱い社員の方の立場を考慮し、告発するのは脱税を指示し、脱税により利益を得ている社長一人を告発するようにしています。

他の刑事事件では、足を押さえた人間、顔を殴った人間すべてを主犯・共犯者として刑事被告人とするのですが、国税庁では、弱い社員の方の立場を配慮しているのです。

コンパッソ税理士法人
代表社員税理士 黒田榮治
(元統括国税査察官)

<参 考>
【令和元年度の査察の概要】
検察庁への告発件数 116件
脱税総額(告発分) 93億円

海外取引などの国際的な事案、拡大市場の事案に対して積極的に調査が行われている。
特に、平成24年度税制改正において創設された国外財産調書に係る罰則の適用は初となり、海外に資産がある場合にはこの調書の提出を怠らないように注意する必要がある。
※国外財産調書
その年の12月31日において、5,000万円を超える国外財産を保有する居住者が、翌年の3月15日までにその国外財産の種類・数量及び価額その他の必要な事項を記載して提出しなければならない書類。

参照資料:国税庁令和2年6月発表資料 https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2020/sasatsu/r01_sasatsu.pdf
国税庁 令和元年12月「国外財産調書の提出制度(FAQ)」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/kokugai_zaisan/pdf/kokugai_faq.pdf

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